ドクター・ディの言葉を鵜呑みにした訳ではなかったが、助け損というのも悔しいし、遺跡の中を探れば金目の物が見つかるかもしれないという思いもあった。 ともあれ、レイヴンとリーゼはドクター・ディの遺跡調査に付き合うことにした。 シャドーとスペキュラーはジェノブレイカーの見張りもかねて外に待たせてある。 フリーズしているガイザックがいつ目を覚ますとも限らない。 シャドーとスペキュラーならそのガイザック自体と合体して、ジェノブレイカーに手を出させないようにできる。 遺跡の内部はいくつもの部屋に分かれていて、その一つ一つを順番に見て歩いた。 ディは部屋に入るとそのあちこちを調べてまわり、古代ゾイド文字を見つけるとリーゼに解読させた。 いちいち資料を見ながら古代ゾイド文字を解読しなくてもリーゼに読んでもらえばいい。ディにしてみればリーゼと出会ったことはとてもラッキーだった。 そのリーゼは訳の分からない文章をいくつも読まされてうんざりしていた。その上、そのほとんどがあまり役に立たない(ディが欲している情報ではない)ものばかりで、余計に面白くなかった。 レイヴンは、なぜディが自分達を遺跡調査に誘ったのか、それを見て分かった気がしたが、レイヴン自身はやることもなく退屈そうにそれを見ているだけだった。 「あんた元気だなぁ」 いくつめかの部屋に入った時、思わずリーゼがそうもらした。 「少し休もうぜぇ」 もういくつの部屋を回ったのか忘れてしまうほど歩き回っていた。それでいて収穫はないので、それがより強く疲れを感じさせていた。 「何をいっちょるか。まだまだ行くぞ」 そのリーゼにディがしかめっ面を見せる。 「まったく、若いのにだらしないのぉ」 「あんたこそいくつだよ。あんまり無理すると腰に来るぜ」 どこか子供じみたやり取りに、レイヴンはやれやれと肩をすくめる。 「歳なんぞ忘れてしまったわい。元気ならそんなものどうでも良かろう」 と、ディのその言葉に、リーゼが少し驚いた顔をした。 「自分の歳を忘れたの? じゃあ、誕生日も?」 「あぁ? バカを言うな。誕生日を忘れるはずがなかろう」 「だって、歳を忘れたって言うから」 リーゼは少し拗ねた表情になる。 「誕生日というのは自分が生まれてきたことに感謝する日じゃ。忘れるなどとんでもない。お前達だって自分の誕生日は忘れたりせんじゃろう?」 レイヴンとリーゼはディの言葉に顔を見合わせる。 ふと、リーゼは先ほど浮かべた疑問を思い出した。 「レイヴンの誕生日っていつなの?」 そして、そう聞いていた。 「なぜわしの誕生日を聞かん」 横からディが口を挟むが、 「興味ないもん」 の一言で終わらせた。 「祝ってやろうと言う気持ちがないのかまったく……」 そう言って拗ねる老人を無視し、リーゼはレイヴンの顔を覗き込む。 「ねぇねぇレイヴン」 リーゼが目を輝かせる。 「ん、ああ……」 と、なぜか口篭る。 「ねぇねぇレイヴン」 ディも目を輝かせた。 「真似するなー!」 それがとどめで完全にディはいじけ、ブツブツと文句を言いながら部屋の中を調べ始めた。 ディの茶茶がなくなったところで、再びリーゼがレイヴンに催促すると、やっとレイヴンが仕方がないという風に口を開く。 「……明日だ」 「えー! 明日ー!? ホントにー?」 「ああ」 「なんで? どうして黙ってるのさー。こんなところにいる場合じゃないよ。お祝いしなくっちゃ」 レイヴンの思いもよらぬ答えに、リーゼは驚き興奮する。 「おいおい。この老人を一人にして行くつもりか?」 ディのそんなつぶやきはやはり無視した。 「ね、レイヴン。今からジェノブレイカーで飛べば明日には街でお祝いできるよ」 「わしの誕生日は祝わんくせに」 またディのつぶやきが聞こえる。 「お祝いなんていい」 と、同時にレイヴンもそう言った。 「えー。どうしてさー?」 「どうしてもだ。俺は、祝ってもらうような人間じゃない」 突然暗くなった。 「俺が生まれてこなければ死ななくてすんだ人間やゾイドがたくさんいる」 「レイヴン……」 さっきまではしゃいでいたリーゼも、レイヴンのダークな発言にトーンが下がる。 「……でも、レイヴンがいなければ僕は死んでいた」 「…………」 「レイヴンがいなければ僕は死んでいたよ」 「リーゼ……」 「ひょひょひょ。お嬢ちゃんの勝ちじゃの」 これは二人とも無視しなかった。 「さっき言ったじゃろう。誕生日は生まれてきたことに感謝する日じゃと。お前さんは自分が生まれてこなければ良かったと思っとるのか?」 「それは……」 言うと、レイヴンはリーゼの顔を見つめる。 黙って自分を見つめるレイヴンの視線の意味に気がつかないまま、リーゼはキョトンとした顔でレイヴンを見つめ返していた。 「おお、これは。これで分かるかもしれん」 その部屋に残る遺跡を見つけると、ディが嬉しそうに声を上げた。 「お嬢ちゃん、こいつを解読してくれんか」 「今度こそ大丈夫なんだろうね? 宝物も見つからないし、これでダメだったら僕達帰るからね」 空振り続きでリーゼはいい加減うんざりしている。そろそろ調査など終わらせて外に出たくなっていた。 「大丈夫じゃて。わしを信用せい」 ディはカラカラと笑った。 「一体、何を調べているんだ?」 レイヴンが口を開いた。 最初は興味のなかった疑問だが、ディの分かるかもしれんという言葉で興味が出た。 「これ、古代ゾイド人の暦じゃないのか?」 それに答えるようにリーゼの声が聞こえた。 「そういうことじゃ。その隣に、ほれ、星の動きが描かれておるじゃろう。そいつを解析すれば今の暦とも照らし合わせることができるはずじゃ」 「え、じゃあ、僕の誕生日がいつかも分かるのか?」 リーゼが驚いた声を上げる。 「ひょーひょひょひょ。このわしにかかれば簡単なことじゃわい」 ディはまたカラカラと笑う。 「いつ? 僕の誕生日いつなのさ?」 「そうせかすな。早く解読せんか」 「分かった」 今までとはガラッと態度を変えて、リーゼが猛烈な勢いで古代ゾイド文字を読み解いていった。 「まったく現金なやつじゃ」 それを見てディがつぶやく。 「リーゼの誕生日が分かるのか……?」 レイヴンも驚いたようにそうつぶやいていた。 |