外はもうすっかり暗くなり、空には二つの月と星が輝いていた。 「ねぇ、まだー?」 その月と星を見上げ計算を続けるディに、リーゼが痺れを切らして声をかけた。 月の動きや星の位置から古代ゾイド人の暦を今の暦に換算しているのだ。 「ええい。気が散るから黙っておれ。うるさくすると明日までかかってしまうぞ」 「ちぇー」 それにリーゼが膨れ面を見せた。 レイヴンは黙って星を眺めている。 仕方がないのでリーゼもその横に座ると、一緒に星を眺めた。 しばらくそうしていたが、やがてディが口を開いた。 「うーん。明日じゃな」 そんなことを言う。 「えー。ホントに明日までかかるのー?」 それを聞き、リーゼが落胆した声を出す。 「何を言っておるか。そうではない。お嬢ちゃんの誕生日が明日だと言っておるのじゃ」 「えー!」 今度は驚きの声だ。 「リーゼの誕生日が明日だと言うのか?」 レイヴンも驚いて聞く。 「さっき聞いたお嬢ちゃんの誕生日を照らし合わせてみるとそうなるの」 こともなげに言う。 「ホント? ホントに明日なの?」 「わしが間違える訳なかろう」 「ひゃっほー! 聞いた? レイヴン。明日が僕の誕生日なんだってさ。あ、じゃあレイヴンと同じ日なんだ。すごいや。やっぱり僕達相性がいいんだー」 と、はしゃぎだすリーゼ。 「え、あ、そ、そうだな……」 レイヴンは、まさか自分と同じ誕生日とは思わず、驚きで上手く言葉が出ない様子だ。 リーゼはスペキュラーの側に駆け出すと、スペキュラーにも嬉しそうに自分の誕生日を報告した。 「ほれ、レイヴン」 そのレイヴンにディがディスクを一枚投げてよこした。 「これは?」 それを受け取ると、レイヴンが聞く。 「古代ゾイド人の暦の資料じゃ。しかるべきところに持っていけば高く売れるじゃろう」 「いいのか?」 「礼が欲しかったんじゃないのか?」 「それはそうだが、なぜ自分で発表しない」 「わしは金や名声のために研究しておる訳ではない。わしの知りたいことはもう分かったでな。あとのことはしらん」 ディはトントンと腰を叩いた。 「ふう。ちょっと張り切りすぎたかの。少々疲れたわい」 それからそんなことを言った。 「ドクター・ディ」 そのディに今度はレイヴンがディスクを投げる。 「なんじゃ? いらんのか?」 「リーゼの誕生日を教えてくれた礼だ」 そのリーゼはスペキュラーの側で楽しそうにはしゃいでいる。 「高く売れるぞ」 それからレイヴンがそう言うと、レイヴンもディも一緒になって笑った。 「明日は街に着いたら盛大にお祝いしようねぇ。なんたって二人分のお祝いだから派手にやらなくちゃ」 「どこにそんな金があるというんだ?」 「あー! そうだよ。結局お礼もらってないじゃないかー」 「誕生日が分かったんだからいいじゃないか」 「誕生日が分かったからお金がいるんじゃないかぁ」 「やれやれ。ディスクは返して正解だったな。俺達はお尋ね者だっていうのに、そんな派手なことができる訳ないだろう」 「ディスクって何さ?」 「教えてやらん」 「ねー、レイヴン。なんのことさー?」 そんなやり取りがコックピット内で行われているジェノブレイカーを見送ると、ドクター・ディもジープに乗り込んだ。 「そろそろガイザック達も目が覚める頃じゃろう。早く行かねばな」 遺跡の周りに横たわるガイザック達の数体は、フリーズしていた体をピクピクと動かし始めている。 「あやつ、一体も殺さずにシステムだけをフリーズさせておるわい」 そのガイザックの様子を見てディがつぶやいた。 『俺が生まれてこなければ死ななくてすんだ人間やゾイドがたくさんいる』 ふと、レイヴンの言葉を思い出す。 「あのレイヴンがの。……お嬢ちゃんのおかげか」 それから、手にしているディスクに目を落とした。 「さて、早く帰ってもう一人のお嬢ちゃんにも誕生日を教えてやるとするかの。ひょひょひょ」 ドクター・ディのジープが、砂漠の上を猛スピードで走りはじめた。 |
ゾイド小説 |