目の前で燃えている焚き火が、時折パチパチと音を立てる。 リーゼはすでに俺の横で寝息を立てていた。毛布の枚数の関係で、喧嘩をしていようと横に並んで眠る。少し滑稽とも思えるが、俺達にとっては喧嘩などその程度のことだ。 シャドーとスペキュラーも丸くなって体を休めている。あいつらは俺達が喧嘩を始めると、いつものことだと言わんばかりに無関心を決め込む。 今夜は俺達が喧嘩を始めたので、それからシャドーは俺の側に寄り付かなかった。とばっちりを受けるとでも思っているのだろう。 俺はなかなか寝つけなくて、ぼんやりと焚き火の前に座っていた。 昔を思い出してセンチメンタルになったとでも言うのか。俺らしくもない。 『レイヴン。君の名前には何か意味があるのかい?』 リーゼの言葉が頭に浮かぶ。 『黒い髪のレイヴン。いい名前だ』 そして、プロイツェンの言葉も。 俺にこの名前をつけたのはプロイツェンだ。おそらくはシャドーも。 髪やボディの色がその名の由来だろう。 『ダークカイザー』という名を知った時には、そのネーミングセンスのなさに思わず笑ってしまいそうになった。 本名は思い出した。他ならぬリーゼのおかげだ。 だが、本名を名乗るつもりはさらさらなかった。プロイツェンに本当の名前を呼ばれるなど吐き気がした。知られることすら嫌だった。 それならまだ、レイヴンと呼ばれる方がマシだった。 パチパチパチ。 焚き火から舞う火の粉が、荷電粒子砲を連想させる。 あの時、俺は初めてヒルツのオーガノイド、アンビエントを目撃した。いや、正確には二回目か。 ニューヘリックシティに侵攻してきたデススティンガーと、俺のジェノブレイカーが対峙した時だ。 シャドーもなく、ボロボロに傷ついた俺のジェノブレイカーに成す術はなく、現れたリーゼとリーゼの乗るサイコジェノザウラーと共に、デススティンガーの放つ荷電粒子砲の高熱にさらされた。 リーゼのオーガノイド、スペキュラーの力を借りて、リーゼと共に何とか逃れることは出来たが、リーゼのゾイドはやられてしまった。 命からがら逃げ出したその時に、俺はアンビエントがデススティンガーに降り立つ姿を目撃した。 忘れていた、リーゼのおかげで取り戻した幼い頃の記憶にある、俺の両親を殺したあのオーガノイドだった。 ヒルツは、俺に悟られないよう、俺の前に姿を現す時はアンビエントの姿は隠しておいたのだ。 ヒルツが俺の両親を殺した。 それからは、ヒルツ、それにくみしていたプロイツェンへの殺意だけが明確になっていった。 プロイツェンがつけたレイヴンという名前を嫌悪するようになった。 慣れ親しんだ俺を示すその記号も、プロイツェンがつけたというだけで憎しみが湧いた。 レイヴン、レイヴン、レイヴン。 それでも、リーゼは何度も俺の名を呼んだ。 イヴポリスでの、ジェノザウラー、そしてデスザウラーとの戦い。 涙を流しリーゼは俺を呼んだ。 戦いの中でリーゼの声が俺の頭に響いた。 リーゼは俺の名を呼んでいるのではない。俺を呼んでいるのだと俺は思った。 戦いの中で、いつしか俺はレイヴンという名前を受け入れられそうな気がしていた。 『レイヴン。君の名前には何か意味があるのかい?』 リーゼの言葉が再び頭に浮かぶ。 『黒い髪のレイヴン。いい名前だ』 プロイツェンの自己満足のためだけにつけられた名前だった。 だが、この名前の意味は今では違うものになっていた。 「レイヴン……」 俺の横で俺を呼ぶ声が聞こえた。 リーゼは気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てている。 「寝言か……。俺の名を呼んだな……」 俺を呼んでくれる人間がここにいる。 「お前に呼ばれるのなら、この名前も悪くはない、か」 俺はそう言うと、そっとリーゼの髪を撫でた。 「リーゼ。……俺の勝ちだ」 思わず苦笑した。 |