レ イ ヴ ン



 相変わらずリーゼの作る訳の分からない料理に俺は閉口する。
 一口それを口に運ぶと、いつものように顔をしかめた。
 不味い。
 口うるさく塩を減らせと言い続けたおかげで塩加減だけは人並みになったが、そのせいで塩以外の味も分かるようになり、純粋に料理の不味さが引き立つようになっていた。
 その不味い料理に慣れつつある自分に気がつかないふりをして、黙々と口に運んだ。
 その俺の顔を見てリーゼがニコニコと笑顔を向けてくる。俺が食べている姿がそんなに面白いのだろうか。
「何だ?」
「何だじゃないよ。どう? 美味しい?」
 俺の言葉に間髪入れずにそう返してきた。
「お前、味見しなかったのか?」
「うん! だって、レイヴンに一番に食べて欲しかったんだもん!」
 それが当たり前とでも言うように、また即答した。
 言っていることは可愛らしいが、俺に言わせれば味見くらいしておいてくれというところだ。
「不味い」
 きっぱりとそれだけ言う。
「えー、どうしてー!?」
 予想外の言葉だったらしく、リーゼは心底驚いた声を上げる。さっきまでのニコニコ顔も一気に不満の表情に変わった。
「不味いものは不味い。大体これは何ていう料理なんだ?」
 リーゼの料理は味もさることながら、その見てくれも独特だった。それとも古代ゾイド人の食卓ではこれが普通だったとでもいうのか。
「食べられれば名前なんてどうだっていいだろう?」
 完全に機嫌を損ねたらしい。語気が荒くなってきた。
「食べられればな」
 俺はというと、溜息交じりにそう答える。喧嘩ならいつものことだ。
「レイヴン。君の名前には何か意味があるのかい?」
 不意に、リーゼがそう聞いてきた。
「…………」
 俺はとっさに言葉がなかった。
「ホラ、答えられないじゃないか」
 俺が何も言わないのを見て、少し勝ち誇った表情になる。
 答えられない訳でも答えがない訳でもないが、リーゼに言うことでもない。
「いいぜ。じゃあ勝負をしよう」
 俺は余程納得がいかない顔をしていたのだろうか、今度はそんなことを言い出した。
「先に相手の名前を呼んだ方が負け」
 勝手に話を進めていく。
「そんな勝負に何の意味があるんだ?」
「また意味かい? 意味なんて必要ないさ。負けた方が勝った方の言うことを聞く。いいね?」
「勝手にしろ」
 俺はやれやれと溜息をついた。



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