ぼ く フ ン ト 番 外 編
プレゼント
〜 with SNOW-SUGAR 〜



   ここは大帝国劇場。
 その中庭でフントは何やら考え事をしていました。

「明日は大好きなレニさんの誕生日。
 でも、ぼくまだプレゼントを何にするか決めていないんだ。
 何がいいかな? 何がいいかな?」

 フントはレニに何をプレゼントしようか、とっても悩んでいたのです。

「何をあげたら喜んでくれるかな。
 素敵なものをあげたいな。
 でも、ぼく犬だからお金ない。お買い物には行けないよ」

 そうしてフントは、一日中考え事をしていました。
 ですが、結局いい知恵が浮かばないまま夜になり、フントはいつの間にか眠ってしまいました。



 夜中。
 フントはふと目を覚ましました。
 いつもなら昼間は元気良く駆け回って、朝までぐっすり寝てしまうのに、今日はず〜っと考え事をしていたから、あんまり疲れていなかったのです。
 そして、フントは気がつきました。

「あ、雪だ! 雪が降ってるよ!」

 フントは思わず空を見上げました。
 見上げた空から深深と雪が舞い降りていました。
 フントは思わず嬉しくなって、中庭中を走り回りました。

「わーい、わーい。雪だ、雪だー」

 そうしてフントが楽しそうに走り回っていた時でした。

 ぴゅー。

「あれ?」

 フントの目の前を何かが横切りました。

 ぴゅー。

「あれあれ?」

 また横切りました。

「何だろう?」

 フントは不思議に思ってキョロキョロしました。
 中庭中を見渡しました。
 すると、誰かが飛んでいるのが分かりました。
 鳥でしょうか? 虫でしょうか? それともコウモリでしょうか?
 フントは中庭を飛び回る誰かさんを一生懸命目で追いました。

「わっほー」

 すると、そんな声が聞こえたのです。

「誰?」

 フントはそう聞きました。

「あはは。あははは」

 誰かさんは笑いながら飛び回っています。
 そうしてしばらく飛び回ると、最初にフントの前を横切ったように、またフントの目の前にぴゅーっと飛んで来ました。
 そして、今度はフントの鼻先で止まりました。
 フントの顔よりも小さな体で、ふわふわとその場に浮いています。
 背中にはキラキラした綺麗な羽が、パタパタ、パタパタ動いています。
 真っ白なドレスをまとって、真っ白な帽子をかぶり、やっぱり真っ白な小さなポシェットをさげています。
 手にはなにやら笛のようなものを持っていました。
 とってもちっちゃな、そして可愛らしい女の子に見えました。

「君は誰?」

 フントは首をかしげて、ちっちゃな女の子に聞きました。

「あたしシュガー。雪使いのシュガーよ」

 すると、ちっちゃな女の子は元気良くそう言いました。

「雪使い?」

 フントはまた首をかしげます。

「そうよ。雪を降らせる妖精なの」

 ちっちゃな女の子は、胸をはってそう答えました。

「ふーん。じゃあ、この雪も君が降らせているの?」

「もちろん。だって、そのために来たんだもん」

「わー、すごいすごーい。
 じゃあ、もっといっぱい降らせてよ。中庭が真っ白になるくらい。
 ぼく雪だーい好き」

「いいわ。もっとたくさん降らせてあげる。
 でも、あなたのためじゃないわよ。
 あの娘のためなんだから」

「あの娘?」

「この家に住んでるでしょ? 今日誕生日のあの娘よ」

 いつの間にか日付は変わり、レニの誕生日を迎えていました。

「え? レニさんの?」

「あの娘レニって言うんだぁ。へー、可愛い名前。
 あの娘って雪みたいに白い肌と、雪みたいに静かな瞳と、それから雪みたいに柔らかそうな髪だよね。
 シュガーあんまり綺麗だから、初めて見た時天使かと思っちゃった。
 えへへ。だからね、この雪はシュガーからあの娘への誕生日プレゼントなの」

「誕生日プレゼント……」

 フントはそこでちょっぴり元気をなくしました。
 自分がまだプレゼントを何にするか決めていないことを思い出したからです。

「どうしたの?」

 シュガーは言いました。

「うん……。ぼく、レニさんに何をあげたら喜んでもらえるか思いつかないんだ。
 昼間からずっと考えているのに、ぼく犬だから良く分かんないや。
 もう、考えすぎて知恵熱出ちゃう」

 フントはすっかりしょげかえります。
 ですが……。

「あはは。あはははは」

 シュガーは大きな声で笑い出しました。
 フントの目の前、その空中で笑い転げています。

「ひどいよ、笑うなんて。ぼく、一生懸命考えたのに、何が一番素敵なプレゼントか分からないんだもん」

 目の前で笑い転げるシュガーに、フントは言いました。

「あはは。ごめんね。
 でも、あなたが可笑しなこと言うんだもん」

 笑いすぎて目に涙を浮かべながら、シュガーはそう言います。

「可笑しくなんかないもん」

 流石のフントもこれにはプンッとしました。

「あはは。じゃあ聞くけど、あなた一体何が出来るの?」

「え?」

 シュガーの言葉に、フントは思わず聞き直します。

「何をあげたらいいかなんて考えたって分かんないよ。
 それより、何が出来るかを考えなくちゃ」

「何が出来るか?」

 フントは目を丸くしました。
 そんなこと考えもしなかったからです。

「あたしは雪使いよ。雪を降らせるのがお仕事なの。
 だからあの娘に真っ白で、すっごく綺麗な雪をプレゼントするんだ。
 だって、それがシュガーに出来る最高のプレゼントなんだから」

 そんなの当たり前だよ、とでも言うように、シュガーはまたクスクスと笑います。

「あなたは何が出来るの? 何か得意なことないの?」

 そして、シュガーはまたフントにそう訊ねました。

「ぼくが得意なこと?」

「そうよ。あなたさっき言ったじゃない。
 ぼく犬だから、って。
 シュガーは雪使いだから雪を降らせるわ。
 あなたは犬なら、犬にしか出来ないことをしたらいいんじゃないかなぁ?
 犬のあなたにしか出来ないプレゼントがきっとあるはずだよ」

「ぼくにしか出来ないプレゼント?」

 そう言うと、フントは考え込みました。

「ぼく、かけっこが得意。
 それから、遠くの音も良く聞こえるよ。匂いもすぐに分かっちゃう。
 あとあと、穴掘りも上手なんだ」

 フントは得意なことを思い出しました。

「えー、そんなにたくさん得意なことがあるのー。
 だったら、絶対その中から素敵なプレゼントが見つかるよ」

 シュガーはそう言うと、えへへと満面の笑みを見せました。
 フントはその笑顔に、ちょっぴりときめき。

「そ、そうかな。
 うん。ぼく、がんばってみる」

「うん。がんばって。
 えへ。じゃあ、シュガーももうひとがんばりするね」

 そう言うとシュガーは笛を構えます。

「これ魔法のピッコロなんだ。
 これで雪を降らせてるんだよ」

 そう言うと、シュガーはピッコロを吹き始めました。
 すると、深深と舞い降りていた雪が、更にたくさん降り出しました。

「わー」

 思わずフントが声を上げます。
 何だかとっても幻想的に見えました。
 雪は朝まで降り続きました。
 シュガーのレニへのプレゼントは、夜の内に完璧に仕上がりました。

「さあ、シュガーもう行くね」

 仕事を終えると、シュガーはフントに別れを告げます。

「待って」

 飛び去ろうとしたシュガーを、フントは呼び止めました。
 フントは一つ不思議に思っていたことを、シュガーに訊ねたかったのです。

「どうして君は友達でもないのに、レニさんに誕生日のプレゼントをするの?」

 それにシュガーはこう答えました。

「えへへー。
 それはねー、一目見てあの娘のことが好きになっちゃったから。あは」

 シュガーは笑ってそう言うと、今度こそどこかへ飛び去っていきました。
 フントはその後姿を、笑顔で見送りました。



 朝が来ました。
 レニの誕生日の朝が来ました。

「フント。朝ご飯だよ」

 誕生日の朝も、レニはいつものようにフントのご飯を持って外に出ました。

「わぁー!」

 外に出た途端、レニは一面の雪景色に目を見張ります。
 誰の足跡もついていない、清らかな純白。
 それは、シュガーがくれた、レニへの誕生日プレゼントです。

「綺麗……」

 思わず漏らすレニの言葉を、シュガーはどこかで聞いているのでしょか?
 レニと同じように白く、レニと同じように静かで、レニと同じように柔らかな、その雪がシュガーからのプレゼントだとレニは知らないけど、なぜかとっても嬉しい気分になりました。

 レニはしばらくその美しさに見とれていましたが、やがて我に返りフントのところまで足を進めました。

「フント、おまたせ。
 朝ご飯だよ」

 そして、フントの側までやってくると、目の前にお皿を置きます。

「わん!」

 フントは元気良く挨拶しました。
 すると、フントは勢い良く駆け出します。

「あ、フント? どうしたの?」

 レニは朝ご飯も食べずに駆け出したフントに声をかけました。

「わん!
 レニさん、こっち。こっちに来て」

 フントはそう言ってレニを呼びます。
 レニは不思議そうに首をかしげて、フントの後に歩き出しました。
 フントはレニが後をついてくるのを確認すると、トテトテと中庭の隅まで歩いていきました。
 そして、そこに生えている木の陰に足を止めました。

「フント、どうしたの? そこに何かあるのかい?」

 レニはフントにそう言いました。

「わんわん!
 そうだよ。ここにあるんだよ」

 フントはそう言うと、その場所に積もっている雪を掻き分け始めます。
 真っ白い雪を掻き分けると、やがてそこに小さな白い花が姿を見せました。

「あ、こんなところに花が咲いているんだ」

 レニは思わず声を上げます。
 一面の雪景色を見た時と同じ感動を覚えました。

「こんなに寒いのに、こんなに綺麗に花をつけている……」

 レニはその花に見とれました。
 寒さに堪えて、一所懸命咲いた花。
 シュガーの降らせた雪に隠れていたけれど、フントが鼻を利かせて見つけました。
 傷つけないように上手に掘り出しました。
 大好きなレニに一番に見せたくて待っていました。
 この花がフントからレニへの誕生日プレゼントです。

「フント、誕生日プレゼントありがとう」

 そう言って、レニは満面の笑みを見せました。

「わん!」

 フントはその笑顔が見たかったのです。
 大好きなレニのその笑顔が。
 そして、その笑顔にもう一度、心からレニの誕生日におめでとうを言うのです。

「わん!
 レニさん、誕生日おめでとう!」



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