ぼくフント5
光のお花



 ぼくフント。犬。
 お芝居をする帝劇っていう所で飼われてるんだ。
 今日は花火大会なんだって。レニさん、嬉しそうに出かけたよ。
 レニさん、今日は浴衣を着てたんだ。
 水色の浴衣に金魚が泳いでた。
 でも、良く見たら、金魚の絵が描いてあったんだ。ちょっぴり残念。お友達になりたかったのに。
 でも、レニさんの浴衣姿が素敵だったから、ぼくは満足さ。

「ただいま」
 あ、レニさんが帰ってきた。
「フント、いい子にしてたかい?」
 大神さんも一緒だよ。大神さんも浴衣を着てる。
「わん!」
 ぼくは大神さんにお返事するよ。だってぼく、いつだっていい子にしてるもん。
「ふふふ」
 するとレニさんと大神さん、顔を見合わせて笑ったよ。何がおかしいんだろう?
「よし。じゃあ、いい子にしてたご褒美に、フントにいい物を見せてあげるよ」
 大神さんはそう言うと、浴衣の袖から何か取り出したよ。
「花火大会に露店が出ててね。そこで買って来たんだ」
 大神さん、そう説明しながら、ぼくの前にしゃがんだよ。
 レニさんも大神さんの隣に並んでしゃがんだんだ。
「さ、レニ。これ持って」
「うん」
 大神さん、レニさんに何か渡したよ。
 こよりみたいな、細いヒモみたいな物だよ。
 そしたら大神さん、今度はマッチを取り出したよ。
 あわわわ。大神さんたら、こよりにマッチで火をつけたよ。火遊びするとおねしょしちゃうよ?
「いいかい、フント? 良く見ててごらん」
 手に持ったこよりに、大神さんが火をつけるのを見ながら、レニさんがぼくにそう言うよ。
 う〜ん。レニさんが言うなら、ぼく良く見るよ。おねしょするのは大神さんだし。
 ぼくはじーっとレニさんが持つこよりを見つめてたんだ。
 そしたら、あれあれ、こよりの先に綺麗な光のお花が咲きだしたよ。ピカピカキラキラ光ってる。
 ぼくはあんまり綺麗でびっくりしちゃう。
「わんわん!」
 綺麗綺麗。レニさん、とっても綺麗だよ。これ何? これ何?
「これは花火って言うんだ」
 ぼくの質問にレニさんがお返事してくれる。
 花火って言うんだって。火をつけるとお花が咲くから花火って言うのかな?
 レニさんもうっとり花火を見つめてる。何だか浴衣姿のレニさんに、綺麗な花火がとっても良く似合ってるよ。
 大神さんもぼくと同じこと思ったのかな? そんなレニさんを見つめてる。……いや、この人の場合いつもだね。
「もうすぐ終わりだ……」
 レニさんがぽつりとそう言ったよ。
 と思ったら、光のお花が全部散っちゃった。
 本当だ。終わっちゃった。花火、散るのがあっという間だよ。何だかちょっぴり寂しいね。
 あ、でも、花が全部散った後、ぽとりと光の種が蒔かれたよ。
 そこからまた花火が育って出てくるのかな? また、あのこよりが生えてくるのかな?
 ぼく毎日観察していよう。
「もう1本やるかい?」
 大神さんがレニさんに言いながら、また花火を取り出したよ。
 ひゃっほー! また綺麗な光のお花が見られるよ。ぼく小躍りして喜んじゃう。
「今度は隊長がやりなよ」
 でも、レニさんは大神さんにそう言ったんだ。
 ぼくは小躍りしながら花火が始まるのを待ってるよ。
「いいよ。レニがやりなよ」
「ボクばかりやっちゃ悪いよ」
 レニさんと大神さんは、お互い相手に花火を勧めてる。
「わんわん!」
 どっちでもいいから早く見たいよー。
 えへへ。なかなか始まらないから、ぼく思わず催促しちゃった。
「あはは。ごめんごめん」
 大神さんはぼくにそう言うと、すぐにレニさんの方を向いたよ。
「じゃあ、レニ。一緒にやろう」
「え?」
 大神さんの言葉にレニさんが首を傾げるよ。
 どうやって一緒にやるんだろう? ぼくも首を傾げて興味津々。
「いいかいレニ。これ持って」
 大神さん、レニさんに花火を持たせたよ。
 それからマッチを擦ると、花火に火をつけたんだ。
「あ……」
 火をつけたら大神さん、花火を持ってるレニさんの手をギュッて握ったよ。
 うわー、大神さん賢いね。これなら2人で一緒に花火が出来るね。
「あんまり動かしちゃダメだよ」
「う、うん」
 レニさんと大神さんは寄り添って、1つの花火を2人でやるよ。
 2人の持つ花火から、また綺麗な光のお花が咲き始めた。
 レニさんも大神さんも、うっとりしながらそれを見つめてる。
 あれ、でも、花火の光に照らされたレニさんのお顔、何だか薄っすら赤くなってる。
 どうしたんだろう? 花火で暑くなっちゃったのかな?
 そんなこと考えてたら、あっという間に光のお花は散っちゃって、また光の種が蒔かれたんだ。
 早く芽が出るといいね。
「……あの、隊長?」
 レニさんが大神さんに話しかけたよ。
 あれ? 大神さんたら、花火が終わったのにレニさんの手をギュッてしたままだ。
「もう少し、こうしてていいかい?」
 その大神さんがそんなこと言い出したよ。
 どうしてそんなこと言うんだろう? もう花火は終わっちゃったのに。
「え? あ、う、うん……」
 あれあれ、レニさんもそんなこと言って、そのまま2人は手を繋いで動かないよ。
 どうしてだろう? 2人で光の種から芽が出ないか観察してるのかなぁ?
 観察はぼくがちゃんとするよ?
 おかしいね。動かないのにそわそわしてる。そわそわしてるのに動かないよ。
 不思議だね。何してるんだろうね。
 ぼく犬だから良くわかんないや。



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