ぼくフント4
おてんきあめ



 ぼくフント。犬。
 お芝居をする帝劇っていう所で飼われてるんだ。
 今日はとっても良い天気。青いお空に白い雲がぽっかり浮かんでるよ。
 タッタッタッ。
 あ、あの足音はレニさんだ。
 ぼく足音でレニさんかどうか分かるようになったんだ。すごいでしょ。
「フント!」レニさんがはあはあ息を切らしてやってきた。
 何だかにこにこしているよ。どうしたんだろう?
「隊長が帰ってくるんだ!」レニさんは太陽みたいな笑顔を見せてそう言ったよ。
 隊長っていうのは、勿論大神さんのこと。レニさんと大神さんはとっても仲良しなんだ。
 仲良しの大神さんが巴里から帰ってくるから、レニさんはにこにこ顔だったんだね。
 レニさんは手に持っていた大神さんからの手紙を、ぼくに見せてくれたよ。
 そこには巴里での仕事が終って、帝劇に戻れるようになったって書いてあるんだってレニさんが教えてくれたんだ。
 ぼくは字が読めないけど、その手紙を一緒に見つめるレニさんの嬉しそうな顔を見てたらぼくも嬉しくなっちゃった。
「わんわんわん」ぼくは嬉しくて、思わずレニさんに飛びつくよ。
「あ、フント」レニさんは慌ててぼくを抱きとめた。
 ちょっと驚かしちゃった。ごめんね。
「こら、ダメだよフント」レニさんはそう言うけど、お顔は相変わらずにこにこだよ。
 ホントに嬉しいんだね。
 レニさんはぼくを抱っこしたまま、片手で器用に手紙をたたむと上着のポケットに仕舞ったよ。
 ポツポツポツ。
 すると急にお空から冷たい物が落ちてきた。
 なんだろう?ぼくは不思議に思ってレニさんの腕の中からお空を見上げたんだ。
 ポツン。
「ふぁん!」するとぼくのお鼻に水滴が当たったよ。
 雨が降ってきたのかな?でも、お空は青くて雲は白いのに。
「ははは」レニさんはぼくが驚いたのを見て笑ってる。
 笑われちゃった。ちょっぴり恥ずかしいや。
「お天気雨だよ」それからレニさんはそう言ったんだ。
 おてんきあめ?天気が良くても雨が降ることがあるんだね。さすがレニさん、物知りだよ。
「さ、濡れちゃうからフントは小屋にお入り」そう言ってレニさんがぼくを地面に下ろそうとした時だった。
 急にぼくとレニさんを濡らしていたお天気雨がやんだんだ。
 あれ?っと思ってぼくとレニさんは一緒にお空を見上げるよ。
 そしたらお空は真っ青だった。さっきまであった白い雲がなくなってるよ。
 あれ?でも、さっきまでのお空の色とちょっと違う気がするよ?どうしてだろう?
 ぼくが不思議に思っていたら、レニさんはそれに気付いてとっさに振り返ったんだ。
「こんなところにいると濡れちゃうよ」そしたら後ろからそう声が聞こえてきた。
「た、隊長?」レニさんは後ろから声をかけた人を見てそう言ったよ。
 あ!ホントだ大神さんだ!さっき手紙が着いたのに、もう帰ってきたんだ。さすが、大神さん素早いね。
「隊長っ」レニさんはもう1度そう言うと、思わずぼくを放り投げて大神さんに飛び込むよ。
 ぽふ。レニさんは軽いから、大神さんの胸に当たるとそんな音がしたんだ。
 それよりぼくは、放り投げられて空を飛んだよ。
 そしてうまい具合に大神さんの頭の上に着地する。
 大神さんの頭はツンツンしてるから、痛いかと思ったら平気だったよ。ちょっぴりドキドキしちゃった。
 その大神さんもレニさんにいきなり飛び込まれて、驚いて持っていた青い傘を放り投げてレニさんを抱きとめたよ。
 お空だと思っていたのは、大神さんの傘だったんだね。どうりで雲がないはずだよ。
「予定が早まってね。さっき帝都に着いたんだ」腕の中にいるレニさんに大神さんが優しく言うよ。
 でも、頭の上にいるぼくのことはお構いなしさ。
「じゃあ、もうずっとここにいてくれるの」レニさんも大神さんの腕の中から大神さんを見上げるとそう呟いた。
「ああ、ずっとここにいるよ」大神さんはそう言うとレニさんの体をギュッとする。
「隊長・・・」レニさんはまたそうやって呟くと、大神さんの顔を見つめるんだ。
 大神さんの頭の上にいるから、大神さんを見上げるレニさんのお顔が良く見えるよ。
 あれれ?あれあれ?
 どうしたんだろう?急にレニさんの瞳から涙が溢れ出してきた。
 ぼくはビックリして、大神さんの頭の上でジタバタしちゃう。
「こら、フント暴れるなよ」そのぼくに大神さんがそう言うよ。
 だってレニさんが泣いてるんだもん。大神さんは気にならないの?
 あれれ?あれあれあれ?
 おかしいよ。レニさん、泣いてるのに笑ってる。笑ってるのに泣いてるよ。
 太陽みたいな笑顔に涙が流れて、まるでお天気雨みたい。
 不思議だね。こんなレニさん初めて見るよ。
 涙って悲しい時に出るんじゃないのかな?嬉しくっても出るのかな?
 ぼく犬だから良くわかんないや。



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