ぼくフント3 |
巴里からの手紙 |
ぼくフント。犬。
お芝居をする帝劇っていう所で飼われてるんだ。
あ、廊下をかえでさんが歩いてる。ここからは廊下の様子がよく見えるんだよ。
かえでさんは優しい人。レニさんはお母さんがいたらあんな感じかな?って言ってた。
あ、レニさんも来たよ。2人で何か話してる。
レニさんはちょっぴり驚いて、それから嬉しそうな顔をしたよ。
かえでさんから何か受け取ったみたい。なんだろう?
レニさんペコリと頭を下げて、かえでさんに手を振るよ。そしてこっちに走ってきたんだ。
「やあ、フント」レニさんはぼくに笑顔で言うよ。
「わん」ぼくもそれにお返事する。
「手紙が届いたんだ」レニさんはぼくの前にしゃがむとそう言ったんだ。
ぼくはそれでレニさんがご機嫌な理由がすぐに分かったよ。
そのお手紙は、きっと大神さんからのお手紙なんだ。
レニさんは大神さんといるといつも嬉しそうな楽しそうな顔になっちゃうってぼくは気がついたのさ。
でも、大神さんはパリっていう遠い所に行っちゃったんだってレニさんが言ってた。
そう言った時のレニさんは何だかとても元気がなかったよ。どうしてだろう?
レニさんはベンチに座ると手紙を読み始めた。
あ、笑ってる。やっぱり大神さんからの手紙は元気が出るんだね。
ニコニコ笑って手紙の文字を綺麗な瞳で追いかけてるよ。
ぼくはレニさんのその顔がもっと良く見たくなって、ベンチの上に飛び乗ったんだ。
ベンチの上に飛び乗って、近くから見上げるレニさんの顔は大神さんと並んでいる時とおんなじくらい可愛かったよ。
ぼく知ってるんだ。レニさんは大神さんの隣りにいる時が1番可愛い顔をするんだよ。不思議だね。
あ、今度はちょっと驚いた顔をしているよ。びっくりすることが書いてあるのかな。
「敵の攻撃がすごくて、あやうくやられそうになった・・・」
レニさんの声がちっちゃくて良く聞こえないや。
あ、今度はちょっぴり怒った顔になっちゃった。
「でも、なんとか花火君との合体攻撃で・・・」
と思ったら、今度は急に寂しそうな顔だよ。
「仲間の協力で撃退・・・」
レニさんが何かつぶやくけど、残念ぼくには聞こえないよ。
「巴里の仲間ともすっかり打ち解けて・・・」
そこでレニさんはちょっぴっりハッとした顔になったよ。
「だけど一人になると何か物足りない・・・」
「やっぱりレニがいないと寂しいです・・・・・」
全部読み終えると、レニさんは手紙から目を離してそっと目を閉じたんだ。
「隊長・・・・・」
それから一言呟いたかと思ったら、レニさん急にボーっとした顔になっちゃった。
そのあとレニさんの綺麗な瞳がちょっぴりきらっと光ったよ。
ぼくはそれがなんだろうって思ったんだけど、すぐにレニさんはぼくを捕まえるとぎゅっと抱きしめてぼくに顔を埋めたんだ。だからそれが何か分からなかったけど、代わりに今度はレニさんの小さな声がはっきりと聞こえたんだ。
「隊長・・・。ボクも・・・」って。
レニさんどうしちゃったんだろう?大神さんからのお手紙なのに元気がなくなっちゃうなんて。
どうしてだろう?どうしてだろう?
もしかしたら、寂しいって気持ちかな?切ないって気持ちかな?
それってどんな気持ちかな?つらいのかな?苦しいのかな?
大神さん、早く帰ってきてあげて。
ぼくどうしたらレニさんが元気になってくれるのかわかんない。
どうしよう?どうしよう?
ぼく犬だから良くわかんないや。