第 七 章

ジム達の決戦、ワードナの完全敗北




 半達は確かにワードナを倒した。間違いなく息の根を止めた……。



 ジム達6人は、ワードナの部屋の前にいた。
「ここまで半達に会わずに来たのだ。途中で引き返したか、あるいはこの部屋に入ったのか……」タクアンがワードナの部屋のドアを見、言う。
「今さら確かめようもない。入るしか、ないな」ジムは言うとドアのふざけた看板を睨んだ。
「ジム……」ミルが不安そうにジムを見る。
「ミル、大丈夫だ。俺達はマイルフィックを倒すほど強くなった。俺達はワードナを倒せる!」ジムはミルを見つめ、確かにはっきりと言った。
「ジム行こう。もう半の奴らが倒しちゃってるかも知れないけど」ジャッキーの言葉に頷くと、ジムは他の5人を見やる。
 ジムは全員の瞳を確認した後、静かに頷きドアに手をかけた。

 部屋に入ると真っ先にその醜い姿がジム達の目に飛び込んできた。ヴァンパイアだ。その後にいる紫色の服を着た男が、ジム達が初めて目にするヴァンパイアロードの様だ。さらにその後ろ、ヴァンパイアロードの背後に玉座に座った老人の姿が見えた。
 ジムはその姿を目にするとすぐさま叫んだ。
「あれがワードナ! みんなっ!」
 ジムはカシナートの剣を構えた。他の5人もジムの声に身構える。
「やれやれ、身の程を知らない連中が多くて困ったものだ。……ワードナ様?」ヴァンパイアロードはそう言うとワードナの顔を一瞥した。
 ワードナがそれに軽く頷くとヴァンパイアロードは下僕であるヴァンパイアに命令する。
「殺せ! 冒険者は1人たりとも生きて帰してはならぬ!」
 その声でヴァンパイア共が一斉にジム達に向かってくる。
 ワードナとヴァンパイアロードは呪文を唱えるつもりだ。詠唱が始まる。
「タクアン、ディスペルを頼む。ブラウン、モンティノを!」ジムが指示を出す。
「うむ」2人が頷き、ジムの言う通りにする。
“まずこのうっとうしい吸血鬼共を整理しないと。しかし、問題はワードナにモンティノが効くかどうかだ”あらゆる魔法を極めたといわれる魔導師だ、悪魔やアンデットモンスター特有の呪文無効化を会得していても不思議はない。ジムはそう考えたが試してみるより仕方がない。
 ジムとスギタはワードナを目指して走っていた。ジャッキーはまだヴァンパイア共に行く手を阻まれ、身動きとれない様だ。ミルは呪文の詠唱をしている。
 最初に効果を発揮したのは、タクアンのディスペルだった。それでヴァンパイアのほとんどが崩れ落ちた。
 次にブラウンのモンティノだ。が、その刹那ワードナの叫びが聞こえた。
“やはり効かないか”ジムが思った瞬間、爆音が響いた。
 ワードナのティルトウェイトだ。
 ドーン。爆音と共に爆炎がジム達を襲った。
「うおっ!」ジム達が爆炎の洗礼を受けたのはこれで2度目。1度目はマイルフィックとの戦いの時だ。
「くっ」ジムは傷つきながらもワードナに斬りつける。スギタもそれに続く。
 フッ。しかし、ワードナはまるで影の様にジム達の攻撃をかわす。
「くくく」ワードナは低く笑った。
「マダルト」ヴァンパイアロードが唱えた極低温の嵐がジム達を襲う。
“ティルトウェイトの次はマダルトかよ。ミル、無事か?”ジムは目の前のワードナを気にしながらチラッと後方のミルに目をやった。
 かなり傷ついてはいるが、ヨタヨタと立っているのが見えた。
「ティルトウェイト!」そのミルが叫んだ。
 ジムの目の前で空間が弾けた。そして爆音、ワードナそしてヴァンパイアロードがその炎に包まれる。ところがそうなったのはヴァンパイアロードだけだった。
 無効化。ワードナはティルトウェイトを無効化した。
「畜生! タクアン、ミルにマディを頼む。スギタ、俺達はワードナだ。奴に呪文は効かない!」ジムはスギタに声をかけると再びワードナに剣を向ける。スギタは力なく頷きジムに続いた。
 スギタもかなりのダメージがある様だ。
“早く決めないと、死ぬ!”ジムは思ったが特に手だてがあるわけでもない。やみくもに斬りかかるしかないのだ。
 ジムとスギタはワードナに自分の力と技の全てをぶつけた。2人はマイルフィックを倒したその自信とワードナを倒すという執念でかろうじてワードナに剣を当てていた。だが、致命傷を与える程ではなかった。

 タクアンのディスペルとミルのティルトウェイトでヴァンパイア共は全滅していたので、ジャッキーはジムとスギタに加勢しようと走り寄って行こうとした。
 しかし今度はヴァンパイアロードがジャッキーの行く手を阻んだ。
「貴方がたはグッドの属性なのでしょう。ならば正々堂々と一対一で勝負したらどうです」ヴァンパイアロードはワードナに2人がかりで相手をしているジム達を顎で刺し、ジャッキーに言った。
「そっちだっていっぱい手下がいたじゃないか」ジャッキーはヴァンパイアロードを睨んだ。
「それはそうです。私はワードナ様を護らなくてはいけない。その為には仕方がないでしょう。それに私はグッドではありませんからね」ヴァンパイアロードは言うが早いかその爪をジャッキーに突き立てようとする。
 カシッ。その爪をジャッキーのショートソード+2、最強の短剣が受け止める。
「ほう、なかなかに素早いですね」ヴァンパイアロードは少し驚いた風に言う
「ふん、素早さだけなら半にだって負けないよ」ジャッキーは、以前ならまだしも最近はそんな事ないか、と自分自身思ったがこう言う事で自分を励ましていた。
「ジャッキー」そこへ、ミル、タクアン、ブラウンの3人が近寄る。
「貴方もやはり一対一をお望みではないのですね」ヴァンパイアロードは言う。
「タクアンはジム達の傷を治してあげてよ」ジャッキーはそれには答えず、タクアンにそう言ってからヴァンパイアロードに言う。
「そっちは魔物だろう」そう言われヴァンパイアロードが一瞬こわばったので、その隙にタクアンはジム達の治療に駆けつけて行く。
「フフフ、魔物か……。ならばその魔物の力お見せしましょう」
 ジャッキーはヴァンパイアロードの笑いの中に淋しさが混じっている様に感じた。しかし、そんな事を考えている暇はない。
「ブラウン、モンティノを唱えて。こいつは無効化出来ないはずだよ。さっきティルトウェイトを受けていたから」
「うむ」ブラウンが頷き、詠唱を開始する。
「たとえ呪文を封じたとして、貴方に私が倒せるのですか?」ヴァンパイアロードは言い、ジャッキーに爪を向ける。
 ジャッキーは確かにヴァンパイアロードの爪を受けるのが精一杯で攻撃できないでいた。
「モンティノ」ブラウンがモンティノを唱えた。瞬間、ヴァンパイアロードの周りの空気が緊張した。どうやら呪文は効いた様だ。
「……」ヴァンパイアロードが口をパクつかせたが呪文で空気の振動が失われているので声は聞こえない。
“呪文は封じたけどこのままじゃ倒せない”
 ジャッキーは休む事なく短剣を振り回している。その素早い動きは本当に半にも劣らないと言え、ヴァンパイアロードは思ったより手強い相手に身動きがとれないでいた。
 こうなるとヴァンパイアロードにとって呪文を封じられた事は大きい。
 ジャッキーの背後で詠唱が聞こえた。ジャッキーは最初それが何の呪文か分からなかった。今まで幾度となく戦いの中でミルやタクアン、それにモンスターの呪文を聞いてきたのに。
 その呪文はジルワンだった。6レベルメイジスペルの対アンデットモンスターの単体攻撃呪文だ。
 この迷宮ではそれほど強力なアンデットモンスターはおらず、タクアンのディスペルで大概片がついていた。その為ミルはこの呪文を唱える機会が少なく、ジャッキーもすぐにそれと分からなかったのだ。
 ジルワンはアンデットモンスターに対しては絶大な破壊力を持つ呪文なので、たとえヴァンパイアロードが不死身とはいっても、効けば肉体が崩壊する事は間違いない。
 ジャッキーは絶え間なく続くヴァンパイアロードの攻撃を受けるだけで逃げも倒せもできない。
 しかし、ヴァンパイアロードにしても思ったより手強いこの盗賊に手を焼き、あまつさえ呪文を封じられているのでミルやブラウンの相手ができずにいた。
 そこへミルのジルワン。しかもモンティノでヴァンパイアロードの周りの空気は振動がなくなっているので、ミルの声はヴァンパイアロードには聞こえないはずだ。ミルのジルワンはヴァンパイアロードの不意をつける。
“頼む、ミル”ジャッキーは思った。
「ジルワン!」ミルが叫んだ。
 フワッ。瞬間、ヴァンパイアロードの体が宙に舞った。飛んだ。まさにそう言うべきだろう。
 ヴァンパイアロードはその紫色のマントをひるがえしジャッキーの頭上高く飛翔した。
 ヴァンパイアロードはジルワンを避けた。ジルワンの効果範囲から逃げたのだ。
「!」ジャッキーは、いや、ミルもブラウンも絶句した。何故分かったのか。ジルワンがくると何故分かったのか。
 ヴァンパイアロードが空中でニヤッと笑った。そして、口をパクつかせる。何か言った様だがまだモンティノの影響で聞こえない。
『唇を読むぐらい訳ない事です』ヴァンパイアロードはそう言っていた。ヴァンパイアロードはミルの唇を読み、何の呪文か分かっていたのだ。
「もう一度だ」ブラウンだった。
 まだ、呆然としているジャッキーとミルにブラウンがそう言った。
「もう一度ジルワンを唱えるんだ。今度は私も同時に唱える」ブラウンが言う。
「え?」ミルが怪訝そうな顔をする。
“どういう事? ブラウンはまだジルワンを知らないはずよ”ミルは思う。
「わ、分かったわ」しかし、それでもブラウンに何か考えがあるのかと思い頷く。
 詠唱が始まった。ミルとブラウンの声が合唱の様にこだまする。
 ジャッキーは頭上のヴァンパイアロードに手をこまねいている。いくら何でも空を飛ばれたら手が出せない。
 ヴァンパイアロードはミルとブラウンの詠唱を聞いて、いや正確には見て、再びジルワンが来ると悟った。
“またジルワンですか。しかし、二人同時なら効果範囲は倍。避けるのは困難ですね。盾が必要……。しかし、あのビショップ、ジルワンが唱えられる程高レベルには見えませんでしたが……”ヴァンパイアロードは思った。そして舞い降りる。
 ジャッキーの目の前にヴァンパイアロードは降りた。
 ジャッキーは身構える。が、遅かった。ヴァンパイアロードはジャッキーの体をマントに絡めてしまった。
 ジャッキーは捕まった。
“ジャッキー、待ってて。ジルワンは人には全く無害よ。ヴァンパイアロードだけを倒せるわ”ミルが捕らわれたジャッキーを見、思う。
“くっ、何をしようっていうんだ”ジャッキーはヴァンパイアロードのマントの中で身をよじらせ、何とか抜け出そうともがく。
 グッ。本当にそんな音がした様にジャッキーは感じた。
 ヴァンパイアロードの伸びた爪がジャッキーの体に食い込んだ。
『さぁ、貴方の精を吸い取ってあげます。貴方はなかなか良い素材だ。殺すのは惜しい、私の下僕として使ってあげましょう』マントの中のジャッキーにヴァンパイアロードが語りかけた。勿論、ジャッキーには何を言ったのか分からない。
 ジャッキーの意識が朦朧としてくる。アンデットモンスター特有のエナジードレインだ。すでに体は麻痺してしまい、身動きは取れなくなっている。
 ミルとブラウンの詠唱が終わろうとしている。
“詠唱が終わる……”ヴァンパイアロードはそう思うといきなりジャッキーの体をブラウンめがけて放り出した。
「ジルワン!」ミルはジルワンを唱えた。ミルだけだ。
 ブラウンはいきなりこちらに近寄るジャッキーの体を受け止める為、呪文を止めた。結果、呪文を邪魔された事になる。
 ヴァンパイアロードの狙いはこれだった。いくら空が飛べても2倍の効果範囲のジルワンから逃げる自信がなかったので、ジャッキーの体を盾としたのだ。
 そして、ミルのジルワンからは先程と同じ様に宙を待って逃げる……はずだった。しかし!
『くっ!』ヴァンパイアロードはその場から動く事ができなかった。
 ヴァンパイアロードの紫色のマントに短剣が突き立てられていた。それはショートソード+2、最強の短剣。ジャッキーの物だ。
『いつの間に?!』ヴァンパイアロードは叫んだ。そして慌てて、マントを裂きながらも宙に舞う。
 しかし遅い。時間にすればほんの僅か、1秒にも満たない時間だった。だが、それがまさに命取りとなった。ミルのジルワンの効果が現れた。
『グワァァァァァ』ヴァンパイアロードが苦しみ悶える。
“この盗賊を甘く見すぎていたと言う事ですか……”ヴァンパイアロードは苦しみながら自分の下僕、操り人形になるはずだった人間の事を思った。
 そして、ヴァンパイアロードはその紫色のマントだけを残し、塵となった。
「ジャッキー!」ミルがヴァンパイアロードを倒した喜びより、ジャッキーの心配をし、ブラウンに抱きかかえられているジャッキーに近寄った。
「大丈夫じゃ。今ディアルコを唱えた。ただ、エナジードレインを受けてしまっている。これだけはどうにもならん」ブラウンが心配顔のミルに言う。
 ディアルコは麻痺を治す治療呪文で、3レベルプリーストスペル。
「でもブラウン。あなたがジルワンを唱えられるなんて知らなかったわ」ジャッキーが無事なのに安心するとミルの頭に先程の疑問が再び浮かんできた。
「ははは、私はまだジルワンを唱えられませんよ。呪文の詠唱だけならティルトウェイトだって知っていますけどね」ブラウンが微笑んで言う。
「え? それじゃあ、ヴァンパイアロードをだましたのね」ミルが驚く。
「まんまと引っかかってくれましたね。私が思うにおそらく彼奴は私達の唇を読んで何の呪文を唱えているのか知ったのでしょう。忍者や侍、特に忍者はそういった訓練もするのだと聞いた事がありますから、ヴァンパイアロードにそれができても不思議ではありません」ブラウンが言うと腕の中のジャッキーを見る。
「それよりよく剣を突き刺す時間がありましたね」ブラウンがジャッキーに言う。
 ブラウンの腕の中でぐったりしていたジャッキーが、ディアルコが効いてきたらしくブラウンの腕から起き出す。
「捕まる瞬間にさ。素早さだけなら半にも負けないってちゃんと言ってやったのに」ジャッキーは立ち上がり言うと、床にマントを突き刺している最強の短剣を抜いた。そして視線を移す。
「さぁ、まだワードナがいる」ジャッキーはジム達を苦しめているワードナを鋭く見つめ言う。
「えぇ」
「うむ」
 ミルとブラウンは、そんなジャッキーに頷きながら、本当に強くなったと思うのだった。

 3人がワードナと戦うジム、スギタ、タクアンのもとに駆けつける。
「また負けたのか、ヴァンパイアロード……」ワードナが自分の目の前に6人揃ったのを見てそう呟いた。
「ジム、大丈夫?」ジャッキーがジムに問いかける。
「あぁ、まだ生きてる」ジムはそう答えるがかなり傷つき、息は完全にあがってしまっている。
「逃げるなら今の内ぞ」ワードナが2人の会話を聞き言う。
「それはこちらの台詞。そろそろ年貢の納め時だ」スギタがヨレヨレになりながらも強がって言う。
「私が逃げる? ふ、はっはっはっ!」ワードナがスギタの言葉に高笑いをした。
「やはり地獄だな、貴様らの行き場所は」ワードナが言うと詠唱に入る。勿論、最強呪文ティルトウェイトだ。
「今度これを受けたら全滅だ」ジムが言った。
「オショウ、マディは?」ブラウンがマディの残りを聞く。
「すまん。尽きた」タクアンが力無く言う。
 いくら他の回復呪文が残っていても、肝心のマディがなくてはティルトウェイトには無力に等しい。
「どうする?」とジャッキー。
「ミル、6レベルの呪文はまだ残っているか?」タクアンが聞いた。
「え? えぇ、まだ残っているけど……?」ミルが何故かしらと思いながら答える。
「よし、ラカニトだ。わしに考えがある。但し、同時じゃ! ワードナのティルトウェイトと同時に唱えるんじゃ!」とタクアン。
 ラカニトは6レベルメイジスペルで、この呪文を唱えると対象になった者の周りの酸素、そしてすでに体内に取り込んでいる酸素すらも消滅させてしまう。効けば確実に窒息死するが、たまに体内の酸素を消滅させられてもそれに耐え、死なないモンスターがいる。当然の事だが息をしていないアンデットモンスターには全く無意味である。
「何を……」ジムはそう言いかけて聞くのをやめた。どのみちこのままでは殺られるし、自分には良い考えは浮かばない。タクアンに考えがあるのならそれに賭けてみよう。そう思ったからだ。
「俺達はどうすれば良い?」ジムがタクアンに聞く。
「ミルの呪文の後、すぐにワードナに仕掛けるのじゃ。ブラウン、おぬしはわしとモンティノじゃ。効かんでもともとじゃい」タクアンはいつになくあらい口調で言う。
「分かった!」ミル以外の4人がタクアンに応えた。
 ミルはすでに詠唱に入っている。ミルより早く詠唱を始めたワードナに追い付かなくては同時にラカニトを唱える事はできない。その為普段よりかなり早口の詠唱だが、失敗すれば全滅という思いが集中力を高め、その旋律は美しさすら感じさせる。人というのは追い込まれると実力以上の力を発揮するものなのだ。
 ワードナの詠唱が終わる。間際にタクアンとブラウンのモンティノが聞こえたが、ワードナの音は失われなかった(モンティノは2レベルという比較的低いレベルの魔法なので、ティルトウェイトやラカニトに比べると詠唱も短くてすむ)。
 身構えていたジム、スギタ、ジャッキーの3人はワードナの前に飛び出す。もし、タクアンの考えが失敗に終われば、3人はティルトウェイトを全身で受ける事になり、間違いなく死ぬ。
 ミルの詠唱が終わる。それはワードナのそれと全く同時だった。そして呪文が行使される。
「ラカニト!」ミルの声がはっきりと聞こえた。
「ティルトウェイッ、ごふっ」ワードナは呪文の最後で何かを喉に詰まらせた様な声を出した。ワードナは死んでいないがラカニトは無効化された訳ではない。
 ワードナは呪文に耐えたのだ。
 ブワッ。ティルトウェイトの影響で爆風が吹きすさんだ。しかし、爆炎は起こらなかった。
 ジム達3人はすぐさまワードナに斬りつけた。
 ワードナはティルトウェイトで目の前に迫る3人は倒せると思っていた。しかし、ティルトウェイトは何故だか行使されず3人は生きている。意表を、そして不意をつかれた。
「たぁ──────!!」ジムのカシナートの剣がワードナの体を滑る。ジムは今までにない手ごたえを感じた。
 スギタは真っ二つの剣をワードナの腹に突き刺していた。
 ジャッキーの最強の短剣はワードナの喉を掻いていた。
 ワードナには何が何だか分からなかった。ティルトウェイトでまず戦士と侍と盗賊を殺し、その後に残った貧弱なスペルユーザー達をなぶり殺しにする。それがワードナの考えていたパターンだった。しかし、最初のティルトウェイトが封じられては話にならない。
“何故だ……。ラカニト……。そうか、ラカニトで空気中の酸素が消え、一瞬だが空気の振動に波紋が、それで呪文の旋律に亀裂が……”ワードナは虚ろな意識の中でティルトウェイトが封じられた訳に気が付いた。
 そしてワードナは倒れる。
 バタッとワードナは6人の見守る中、その体を床に横たえた。
「やった!」思わずジャッキーがそう叫んだ。
「待て、まだ死んだと決まった訳じゃない」ジムが落ち着いて言う。
 ジムの言葉に全員が固唾を飲んで倒れているワードナを見つめる。
 しかし動く気配はない。
「死んだのさ」スギタが口を開いた。そしてワードナの死を確認しようとワードナの体の横でしゃがみこんだ。
「気を付けろ」とジムが声をかける。
 息をしていない。瞳孔が開いている。死んでいる。確かにワードナは死んでいる。
「死んでいる。死んでいる!」スギタが叫んだ。
“ワードナを倒した”全員がそう思って安心と喜びが心を支配した。
 しかし次の瞬間、ワードナの体から突然蒸気の様な物が吹き出してきた。
「!」6人は突然の事に息を飲んだ。
 一番驚いたのはすぐ横にいるスギタだった。生きているのか? 生きていて何か呪文を唱えたのか? マジックアイテムを使ったのか?
 一瞬にしてスギタの頭の中に色々な考えが浮かんだ。しかしそれは全て外れた。
 ワードナは確かに死んでいた。ワードナの体は溶け出していたのだ。
 そして蒸気がおさまると床にはワードナの体はなく、ワードナの纏っていたローブとマントと宝冠とそして魔除けが残されていた。
「一体?」ジムが何が起きたのだろうと口を開く。
「分からぬ……」タクアンがそれに答える。
 横でブラウンもタクアンに同意した。
 一体何が起きたのだろうか? 6人には分からなかった。しかし、とりあえずワードナは死んだ。ワードナは倒した。そして今、魔除けを手に入れる。
「やったぞ。魔除け、俺達は勝ったんだ!」ジムは魔除けを手にし、やっとワードナを倒したという実感が湧いてきた。
「ジム……」ミルも感涙する。
 ジャッキーは声を出して泣いている。スギタはジャッキーの横で泣くな男だろと声をかける。タクアンとブラウンも嬉しそうに笑う。
「さぁ、帰ろう!」ジムが声をかけ、5人がそれに応える。
 そして6人はミルのマロールで地上にテレポートした。



「何!?」ジムにワードナの魔除けを見せられた、その兵士の第一声はそれだった。
 ジム達はそこで愕然となった。



 この時、ジム16レベル、スギタ15レベル、ジャッキー13レベル(エナジードレインの為4レベル減少)、タクアン17レベル、ブラウン16レベル、ミル16レベル、であった。



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