第 六 章

激闘再び、半対ワードナ




 ジム達は迷宮に魔神マイルフィックが召還されている事とその正体が完全な存在ではなく、幽体に近いものだという事を冒険者達に伝えるとすぐに冒険者の宿に泊まった。
 そしてジム達が休息を終えて再びギルガメッシュの酒場に集まった時、その声が聞こえた。
「半達が迷宮に潜ったらしいぞ。何でも必ずワードナを倒すと宣言していったそうだ」
 ジム達はそれを聞くとすぐに迷宮に向かった。先を越されたくないという思いはあった。しかし、それ以上に胸騒ぎがしていた。
 何かが起きる、そんな気がした。



 グレーターデーモンの首が転がった。今の半にとってこの悪魔ですら唯のデクでしかない。
 半達はすでに6つ目の部屋をクリアしていた。今までにない異例の早さだ。今日はいつもと気合いが違う。
“ジム達が魔神マイルフィックを倒したと聞いた。だが、今の俺達ならマイルフィックなど必ず倒せる。そしてワードナも……”半はそう考えていた。

 ワードナの部屋の前に半達は再び立った。半はその部屋のドアを目にし、口から笑いを漏らす。
「くくく……。俺達はついに迷宮最強になる」半が誰に言うでもなく呟いた。
「行くぞ!」半が今度は他の5人を見て言う。
 5人がそれぞれに応えるのを見ると半はドアを蹴り開けた。
 バッ! そしてなだれ込む。
「よくも2度もワードナ様の部屋に現れる事ができましたね」まず6人を迎えたのはヴァンパイアロードだった。
 6人は何も答えず戦闘態勢を取った。
「チィッ!」プライドの高いヴァンパイアロードが無視されて腹を立てる。
「行け、吸血鬼共!」ヴァンパイアロードの合図で全部で18体ものヴァンパイアが襲いかかってきた。
「ディスペル!」シュンッ! しかし17体のヴァンパイアが一瞬にして消え去った。カンとミシェルのディスペルだ。
 そして残りの1体はディープが剣で叩き殺した。
「この前の俺達とは違う!」叫び半は、剣の切っ先を玉座に座る老人に向けた。
「!」ヴァンパイアロードはただ驚いている。
「じゃが、まだまだじゃの」老人はそう言ったかと思うとその場から忽然と姿を消した。
「マダルト」戸惑った6人の背中からその声は聞こえた。
「うわっ!?」極低温の嵐が6人を背後から襲った。たった10歩程の空間をワードナはマロールで跳んだのだ。
 だが奇妙な事に誰もワードナの呪文を聞いていない。恐らく魔除けの力を使ったのだ。ワードナは魔除けを身に付けている。
「ワードナァ!」半が怒りを口にした。
「ワードナ様!」ヴァンパイアロードが歓喜の声を上げる。
「喜ぶのは俺を倒してからにしな」シュッ。カシナートの剣がヴァンパイアロードの胸をかすめた。
「シャドームーン、確かその様な名前であったな」シャドームーンがヴァンパイアロードと対峙した。
 ディープとカンとレタスが半のフォローに、ミシェルがシャドームーンのフォローに入った。
「行くぞ!」半の気合いと共に5人が動く。
「モンティノ!」
「モンティノ!」
「カティノ!」呪文所有者の3人がワードナの魔法を封じる為呪文を唱える。だが、それらが効いた様子はない。
 半は剣を構えるが攻撃する隙がワードナには見当たらなかった。
「ラハリト」瞬時にワードナは呪文を唱えてくる。
 6人を中規模な攻撃呪文が襲う。
“なめているのか、たかが4レベルの呪文で……。いや、挑発かっ!”半がワードナの意志を推測する。
「モンティノ」カンがなおも呪文を唱える。
「お前達低級のプリーストの呪文など私には効かぬわ」ワードナが笑う。
「だぁ―――――!」ディープの叫びだった。隙のないワードナに業を煮やして突っ込む。
「やめろ!ディープ!」半は叫んだが遅かった。
 ガコッ。鈍い音が響いた。ディープの鎧が砕けた音だ。
「痛ぅ!」ディープが顔を歪ませる。
「ディープ!」半が声をかける。
「は、半、気をつけろ! 毒だ、毒を使うぞ!」ディープの言葉にカンが即座に4レベルの解毒の呪文ラツモフィスを唱えた。それでディープは治った。
「毒だと……」半が呟く。
 ワードナの武器は50センチ程のワンドだ。当然、魔法のワンドだろう。
「レベル1の戦士とマスターレベルの魔法使いが武器だけで戦うとどちらが勝つと思う? 私とお前なら魔法なしでも私の勝ちだ。ドワーフの戦士よ」
「何を!」ディープは頭に来ているが、それが嘘ではない事を身を持って知らされていたので、これ以上手出しができなかった。
「私のワンドは毒だけではない。ストーン、パラライズ、クリティカルを使う事もできる。私自身はドレインを4レベル程とな」
“やはり強い。だが俺達だって強い。少なくとも城塞都市1のはず”
「ディープ、行くぞ。所詮は魔法使い。体力はそれほど高くない、致命傷さえ与えれば勝てる。カン! レタス! 何とか呪文を封じてくれ!」半の言葉にカンとレタスが力無く頷いた。
「そう、私は魔法使い、魔導師なのですよ……」ワードナは詠唱を始めた。それは紛れもなくティルトウェイトの呪文だった。

 半がワードナとやり合っているかたわらで、シャドームーンはヴァンパイアロードと再び剣を交えていた。
「シャドームーン、貴様そのカシナートをどこで手に入れた」ヴァンパイアロードがシャドームーンに問う。
「ヴァンパイアロード、やはりお前このレッドという者を知っているな?」ヴァンパイアロードがしきりにカシナートについて聞くので、シャドームーンは怪訝に思っていた。
「知らん! ただ、そのカシナートを使っていた男を知っているだけだ」ヴァンパイアロードの態度は以前と同様奇妙に思えた。
「ふん……。これは宝箱から見つけたものだ」
「何!」
“この迷宮にまさかこのカシナートが紛れ込んでいようとは”
 キーン! カシナートの剣とヴァンパイアロードの爪が火花を散らす。
「カティノッ」ミシェルが呪文を唱える。
「馬鹿め。不死の王にその様な呪文、効かぬわ」言ってヴァンパイアロードはシャドームーンと1歩間を置いた。
「馬鹿ですって!」プライドの高いミシェルが怒る。
「ミシェル、ディスペルだ!」とシャドームーン。
「わ、分かったわ」ミシェルは言われ、怒りを抑えてシャドームーンのいう事を聞く。
「レベル15かそこらのビショップのディスペルが効くものか」
「やかましい!」シャドームーンが斬りつける。
「うお――――――!」シャドームーンが思い切り速く剣を操り始めた。
「くっ!」流石のヴァンパイアロードも少しずつだが傷ついていく。そして、数ヶ所から血が滴り落ちる。
「これで最後だ!」執拗に剣撃を繰り返していたシャドームーンがそう叫んだ後に一際大きなアクションで斬りつける。
「ディスペル!!」そこへミシェルのディスペル。
「ぐおぉォォ……」ヴァンパイアロードが苦しみだした。
「ヴァンパイア、吸血鬼は血が力の源。それ故に回復力が高い。ならば傷が癒えるよりも早く血を流させれば良い。ミシェルのディスペルでも弱ったお前なら効くはず、やはり思った通り」シャドームーンが自分の作戦を話す。
「見事だ、シャドームーン。流石と誉めておこう。だが、私は不死の王。すぐに蘇り今度会った時には貴様のエナジー、全て吸い取ってくれる」ヴァンパイアロードは苦しみながら言う。
「分かったから、消えな!」シュン! シャドームーンはヴァンパイアロードの体にとどめの一撃をお見舞いした。
 ヴァンパイアロードはまるで舞うようにその場で一回転してから床に崩れると、溶けるようにその場から消えた。
「やったわね、シャドームーン!」ミシェルの声がシャドームーンの背後に聞こえた。
「あぁ、だがまだワードナが残っている」シャドームーンは振り向かず、そのままの姿勢で応えた。
「えぇ」ミシェルがそう言うが早いか、シャドームーンは半の加勢に加わり、ミシェルもすぐ後に続いた。

「ヴァンパイアロードを倒したのか? ……なるほど、ここまで持ちこたえているのは運だけではないという事か。良かろう、全員揃ったところでまとめて冥界へ送ってやろう」ワードナは言うと再びティルトウェイトの詠唱を始めた。
“先程のティルトウェイトでかなり傷ついている。今度くらったら2、3人は確実に死ぬ!”半がそう思った時その詠唱が耳に入ってきた。まるでワードナと輪唱しているように聞こえる。
“レタスか!”全員がレタスを見、息を飲んだ。
 最上級の攻撃魔法が激突しようとしている。そして、それはすぐに現実のものとなった。
「ティルトウェイト」ワードナの落ち着いた声。
「ティルトウェイト!」そのすぐ後にレタスの叫びが響く。
 爆音はほとんど同時だった。
 半達6人とワードナの中間で2つの大きな力がぶつかった。
 カッ! ドーン!
 凄じい光と音、それに爆風。パーティの全員が爆発の衝撃に備え後退していた。しかし全員が壁まで吹き飛ばされた。いや、半は違った。
 半はティルトウェイトの力を利用した。レタスが呪文を唱え終わった瞬間、半はジャンプした。直後、爆風で半は天井まで運ばれ、半は天井に着地する。そして、床に向かって思い切り飛んだ。半の瞳は勿論ワードナを捕らえている。
 ズバッ! 半の剣がワードナを斬り裂いた!
 半の瞳に映るワードナは胸から鮮血を流している。半の意外な攻撃に流石のワードナも避ける事ができなかったのだ。
 ワードナは怒りの形相で半を見る。だが、半は構わず再び斬りかかった。
 シュッ。ガキッ! だが、ワンドがそれを受け止める。
「ゆるさん! この私に傷を負わせるとは、絶対にゆるさん!」ワードナは叫ぶと思い切りワンドを振り上げて、そして一気にそれを振り下ろした。
 キンッ。今度は半の剣がそれを受け止めた。
「やはり貴様はそこのドワーフの様にはいかぬようだな! ならば取って置きの呪文を見せてやるわ!!」言うとワードナは今までにない早さで詠唱を唱え始めた。
“かなり頭にきているのか……いや、さっきの攻撃がかなり効いているんだ。ワードナは勝負を焦っている!”
「何の呪文だ?!」レタスの声に半は、背後の仲間達をワードナに隙を見せない様さりげなく見る。
 一応、全員生きいている様だが皆ボロボロだ。
“確かに……”半はレタスの言葉に同意した。初めて聞く詠唱だった。
“俺達の知らない呪文だ!”半達はどう対処していいか分からず一瞬躊躇した。カンがモンティノを唱える間もなくワードナの詠唱は終った。そして、叫んだ。
「サモニング!」ピキ、ピキピキッ。氷が割れるような音が聞こえた、半達とワードナの間の空間で。
 それは空間が割れる音だった。そして、そいつが現れた。
「召還魔法!!」レタスが驚きの声を上げた。
 魔界と人界とのトビラはすでに閉じている。
 そいつは、すでにはっきりと姿を現していた。人間の3倍か4倍はある体。ホビットの半なら5、6倍はある。
「マイルフィック!」ディープが叫ぶ。そう、半達6人、全員が初めて目にする魔神マイルフィックだった。
「傷ついた貴様達に、この太古の魔神が倒せるかな……」もう勝った気でいるのか、余裕の笑みを浮かべワードナが言う。
“確かに普段の俺達なら倒せない相手ではないはずだ。だが、今は全員が傷つきすぎている。……勝てない!”
「そう思っているのは俺以外の5人!」言うと半が飛び出す。そして、その怪物の前で思い切り跳んだ! 自分の体の5、6倍はある高さを一瞬に。そして、横一閃!
「!」ワードナは驚きで声が出なかった。
 ダンッ。マイルフィックの首が床に転がり落ちる。マイルフィックは首をはねられた。
 まさに一瞬! いやその2分の1!! 瞬きの半の名の通りのスピードであった。
「半!」ミシェルが喜びの声を発した。
 半はそれには応えずワードナに言う。
「貴様に時間は与えん。傷を癒す前に倒す!」半にはすでに分かっていた。
“俺達は、いや! 俺はワードナに勝つ!!”
 半は呆然と立ち尽くすワードナに剣を突き刺す。
 胸、腕、肩、首、目、腹。ワードナのありとあらゆる所へ半の剣が突き刺さる。一体何回刺したのか誰にも見えなかった。
 そしてワードナの体の至る所から血が吹き出す。ワードナの目はすでに虚ろだ。
「き、貴様……ゆるさん。貴様だけは、絶対にゆるさん!」ワードナのその言葉は、もう意味を持たなかった。
 ワードナは天井を仰ぎ、そしてバタッと床に倒れた。まるで鬼のような形相で死んだ────。

 天井を睨みつけているワードナの屍からシャドームーンが魔除けを奪う。
 6人が固唾を飲んでそれを見守る。
「やっと、やったぜ。これで俺達は親衛隊に入れる!」ディープが感きわまってそう叫ぶ。
「そうね」ミシェルも嬉しそうだ。
「ついに手に入れた、魔除け」シャドームーンがそう呟く。
「疲れたが、戻ればトレボーの褒美が貰えるはずだ。帰ろう!」半の言葉にみんな同意し、最初にワードナがやった様に魔除けのマロールの呪文を開放し、城へと帰還した。



 この時、半14レベル、シャドームーン15レベル、ディープ16レベル、カン16レベル、ミシェル15レベル、レタス16レベル、であった。



<< 第五章   第七章 >>