レニがホースを構えると、左手を上げて大神に合図を送る。
 それで大神が蛇口をひねると、ホースから勢い良く水が飛び出した。
 水を撒き始めるとフントが寄って来て、遊んでくれとでも言うようにレニの手をなめはじめた。
 フントがじゃれるから狙いが外れ、ひまわりの花にバシバシと水がかかる。
「こら、だめだよ」
 レニは笑顔でフントを叱った。



 パシパシパシッ。
 ひまわりの花は水で色あせることはない。
 パシパシパシパシッ。
 人を大切に思う心は色あせないものなのだろうか。
 パシパシパシパシッパシパシパシパシッ。
「変わらないものもあるよ」
 誰に告げた訳でもない。
 ただフントがレニの手の平をなめつづける。




「何がだい?」
 いつの間にか、大神がレニの側に立っていた。
「なんでもない」
 そう言うと、レニはいたずらっ子のように笑う。
「え、教えてくれよ。レニ」
「あはは。隊長には秘密だよ」
「レニー」
 今度はフントの代わりに大神がじゃれはじめた。
「わんわん」
 フントも楽しそうに鳴き声を上げる。
「あはは」
「ははは」
 今日も帝劇に二人の笑い声が聞こえる――。









          ...







  L I T T L E W I N G

       完



<<     .



Sternbild-Programm
「第六幕」 「リスト」     

photo by sousi