「うわぁ、すごいね。本当に、街の夜景が透けて見えて……。綺麗……」
 窓の下で弾ける花火。その下に広がる帝都の夜景に、レニは感嘆の声を上げる。
「本当だね。こんなに綺麗だなんて俺も思わなかったよ」
 レニの隣、大神も眼下に広がる景色に、目を見張った。
「アイリスに教えてあげなくちゃ。上から見ても花火は丸かったって」
 嬉しそうにレニ。
 あまりの光景に、レニには珍しく少し興奮気味だ。
「あはは。そうだね。あの屋形船がみんなの船じゃないかな?」
 大神が窓ガラスに指を付けて隅田川に浮かぶそれを指差した。
 それぞれの名前が書かれたのぼりが、勿論文字は見えないが、目印となった。
 その隅田川にも花火が映り、それもまた美しかった。
「うん。この飛行船も見えてるのかな?」
 そう言うと、レニはまた眼下の光景に釘付けになった。

挿絵:サコタさま

「レニ。その浴衣、良く似合ってるね」
「え? あ、ありがとう……。かえでさんに、着せてもらったんだ」
 突然の言葉に、大神に視線を移すとレニははにかんで見せた。
 鮮やかな水色が足元に行くほど濃くなっていくグラデーション。
 裾には赤や紫や緑色をした蝶々が舞っている。
 緋色の帯がアクセントを沿え、足元を飾るぽっくりが時折小気味いい音を立てた。
 良く見れば、唇には薄っすらと紅が引かれている。ひかえめだが、それゆえに良くレニの美しさを引き出していた。
「隊長……。あの、ありがとう。ボク、すごく嬉しい。『羽根が生えて飛んで行きそう』なんてセリフは、きっとこんな時に使うんだね」
 はにかんだままにレニ。
「レニ……。でも、俺レニに謝らなくちゃいけない」
「それは、もういいよ。こんなに素敵なものを見せてもらったんだから」
 自分に隠し事をしていたことを言っているのだろうと、レニは笑顔で首を振った。
「違うんだ。隠し事してたのも悪かったと思ってる。ごめん。でも、それより、どうしてレニを誘わなかったんだって。どうして一緒に飛行船を作ろうって言わなかったんだって」
「…………」
「俺、これを作ってる時、楽しかった。レニは喜んでくれるかなって考えたり、そのレニの顔を想像したり……。でも、レニを不安にさせて、それでもレニが俺を信じるって言ってくれた時、気がついたんだ。二人ならもっと楽しかったはずだって」
「……隊長」
「一人にして悪かった。不安にさせてごめん。レニに喜んでほしかったのに、レニが一番喜ぶことに気がつけなかった」
 ドドーン。
 大きな音と共に大きく花火が夜空に咲いた。
「……隊長。じゃあ、次はボクも誘ってくれる?」
 レニがじっと大神を見つめる。
 その瞳が輝いて見えるのは、花火が映っているからだけではない。
「ああ。約束する。レニの笑顔が、大好きだから」
 レニの瞳に大神が映るように、大神の瞳にもレニが輝く。
「二人なら、もっと高く飛べる」
「隊長」
「レニ」
 そして、お互いを映すお互いの瞳が、そっと閉じられた……。



挿絵:サコタさま

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