LITTLE WING 第三幕
『風雲』

それからレニは猛然と泳ぎ始めた。
自分の中にある腹立たしさや悲しみを忘れるように、何も考えずにすむようにと。
そして疲れで体が重くなってきたころ、ようやくレニはプールから上がった。
そのままお風呂へ直行し熱い湯船につかる。
冷え切った体にお湯のぬくもりがしみこんでくる。
そのぬくもりが疲れや悩みを癒してくれる………レニにはそんな風に感じられた。
そのせいかお風呂から上がるころにはレニの気持ちもだいぶん軽くなっていた。


「レニ?」
髪を拭き、廊下に出たところでレニは突然声をかけられた。
顔を見なくても声だけで誰だかわかったが、それでもレニは顔を確かめてからつぶやいた。
「隊長………。」
大神はレニの側まで来て話しかけた。
「お風呂に入ってたのかい?」
「うん。隊長はどうしてここに?」
「俺はちょっと医務室に…。」
その言葉にレニは驚いた。
「医務室って、具合でも悪いの?それともどこか怪我でもしたの??」
あわてて問いかけながら大神がどっか怪我をしてないかと目で探る。
そうしながらレニは心の中で後悔していた。
自分の感情に手がいっぱいになって隊長の不調に気づかなかったなんて………と
「ち、違うよ。」
レニの反応に大神があわてたように答えた。
「さっきカンナに大食い競争に付き合わされてね。
 胃がつらくなってきたから胃薬を取りにきたんだ。」
「そう………なんだ。よかった。」
レニは安堵のため息をついた。
それを見た大神はレニの頭に手を置いてレニの顔を覗き込んだ。
「ごめんな、余計な心配をかけて。」
その言葉にレニは小さく首を振った。
「ううん、ボクが早とちりしたのが悪かったんだ。
 だから気にしないで。」
大神の目を見つめ返してレニは微笑んだ。
「レニ……。」
大神はレニの頭の上に置いていた手をそっとあごにかけた。
そしてレニに軽く触れるだけのキスを送る。
レニが目を開けると大神が優しそうな顔でレニを見つめていた。
今なら答えが聞けるかもしれない………
レニはそう思った。
「隊長………、ボクに内緒でいつもどこへ出かけているの?」
その瞬間、大神は固まった。
そしてレニから目をそらし必死に言い訳を考えているようにみえた。
「もう…………いい。」
ちっとも答えようとしない大神の態度に傷ついたレニは大神の横をすり抜け自分の部屋へと走っていった。
「レニ、レニ!!」
大神は声をかけるだけでレニのあとを追おうともしなかった。
そのことが再びレニの心を傷つけていた。


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美月の独り言