楽屋で司会服をメイド服に替えながら、シーは大神のことを考えていた。
 今日は色々な大神を見た気がする。
 にこやかな大神。真面目な大神。困っている大神。にやけた大神。優しい大神。頼りがいのある大神。
 今日の大神を思い出すと、出会ってから今までの大神も頭に浮かんでくる。
「大神さんって、初めて会った時から頼りになるって気がしてたけど、今日はホント助かっちゃったなぁ」
 最初に迫水に連れられてきた大神は、優しそうでそれでいて凛々しくて。
「グリシーヌ様のお屋敷でメイドの服を着てた時はちょっと驚いちゃったけど、今考えるとアレはアレで可愛かったかもっ」
 真面目で一生懸命な中にも、愛嬌があり憎めない。
「光武Fに乗ってる時も格好良いしぃ。ホント、サムライって感じっ!」
 初めて会った時のサムライのイメージは、戦闘のたびに強くなっていく。
「あぁ、あたしぃ……」
 そこでシーは、大神のことを考えて楽しそうに笑っている自分にふと気がついた。
「なんか、あたし大神さんのことばかり考えてるぅ……」
 シーは自分の中に今までなかった感情が生まれたことに気がついてしまった。
「あたし……好きになっちゃったのかなぁ……? ううん、大神さんのことは好きだけど……」
 言葉にして、自分の気持ちを整理する。
「でも、あたしが一番好きなのはメルだもん……」
 そう口に出してみるが、その言葉が本当かどうかシーは確信が持てなかった。
 着替えはほとんど終わっている。後は頭にホワイトブリムを載せるだけだ。
 シーは目の前の鏡に視線を合わせた。
「…………」
 そこに映る自分を無言で見つめる。
 しばらくそうして黙っていた。
 やがて、すぅっと笑顔になると頭の上にホワイトブリムをセットした。
「こんな顔あたしには似合わないんだからっ!」
 いつものように元気良く、シーが明るい声を出す。
「そうだぁ! メルと大神さんを誘ってカジノ行こう!!」
 そして、ロベリアにもらったチラシのことを思い出した。
 悩んでいてもしょうがない。いっそ三人で出かけて、一緒に楽しんでしまえ。
 前向きで行動力のあるシーらしい考えだった。
「よーし、お店が閉まったら、緊急連絡しちゃおっと!!」
 楽屋を出るとシーは元気良く売店へと走っていった。

 携帯キネマトロンの緊急連絡でメルと大神を呼び出すと、半ば強引にだが二人をカジノに誘うことに成功した。
 大神にしてみれば、巴里と帝都の花組を仲直りさせるきっかけを探すのに忙しく遊んでいる暇などないのだが、まさかこんな時間に女の子二人でカジノに行かせる訳にも行かない。
 カジノという場所が危険だというのは偏見だが、やはり男としてシーの誘いを断る訳にはいかなかった。
 巴里郊外にあるそのカジノでは、ポーカーやブラックジャックが盛んなようで、シーはポーカー、メルはブラックジャックが気に入ったようだった。
 大神はどちらにも付き合い、駆け引きの上手さと持ち前の度胸、それに運も手伝ってたくさんチップを増やしていった。
 シーもメルもそんな大神に驚くと同時に、そのギャンブラーとしての才能を持てはやした。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜も更けると三人はまたシャノワールに戻ってきた。
 そこで三人のデートは終わり。明日からはまた同じ日常が帰ってくる。
 シーは大神と別れてから、一緒に歩くメルに尋ねてみた。
「ねぇ、メル、今日売り子やってた時に大神さんにブロマイド渡したんでしょう?」
 今日入荷したブロマイドは、他ならぬメルとシーのものだったのだ。
 常連客向けにホンの遊び心から作った、サービスの品だった。
「ええ、渡したわよ。もう、シーが今日に限って売り子を代わってなんて言うから、わたしが渡すことになっちゃったんじゃない」
 メルはその時のことを思い出し、恥ずかしさから少し拗ねてみせる。
「あはは〜、ごめんね、メルぅ」
 そのメルが可愛くて、シーは思わず笑顔を見せる。
「メル、大神さん、あたしとメルとどっちを先に見た?」
 続いてそんなことを言う。
「え? 何言ってるのよ、シー?」
 そのシーの言葉に、メルがキョトンとした顔をする。
「えへへ、何でもな〜い!」
 すると、すぐにまたそう言って、ギュッとメルの腕にしがみつく。
「メル、だ〜いすき!!」
 腕を組んでニコニコと笑うシーを見て、メルは訳が分からないという風だったが、そのうちその笑顔につられてメルも同じように笑顔になった。

 シーの大神への想いが恋なのかどうか分からないままに、それから四ヵ月が過ぎた。
 大神は任務のため、再び東京へ帰ることになる。
 それを知ったシーに大神が挨拶にやって来た日。シーは大神にこう言うのだ。
「大神さん……行ってください……
 これ以上、大神さんの顔……見ていられないですぅ……
 これ以上見ていたら……あたし……大神さんのことホンキになっちゃうから……
 だから……行ってください……
 お願いします……」
 それは、シーの初恋だったのかもしれない……。



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