シーの一番長い日
〜サクラ大戦3第7話より〜



   シーは思わず物影に隠れた。
 もうすぐ出番だというのにメルの姿が見当たらず、シーが探しているとその場面に出くわしたからだ。
 道具室に大神とメルの姿を見つけた。
 2人がいただけなら何も隠れることはなかったのだが、2人が抱き合っている姿を見せられては、反射的に隠れてしまったのも無理はないだろう。
 シーが見てはいけないものを見たという思いに駆られながらも目を離せずにいると、やがて2人は体を離した。
 大神がメルの肩に両手をかけると、メルがぽぉっとした表情で頬を赤らめてその大神を見上げていた。
 今度は大神がメルを見つめ微笑むと、メルが恥ずかしそうにうつむく。
 シーはその二人を見て、不思議な感情にとらわれていた。
 何故か、胸にモヤモヤとするものを感じていた。
 声をかけるにかけられず、仕方なくそのまま一人舞台裏に戻ると、しばらくしてメルがやってきた。
「ごめん、シー。遅くなって」
 そう声をかけるメルに、シーは作り笑いを見せることしか出来なかった。

 売店にシーの姿はあった。
 一人で売店を切り盛りし、その忙しさの合い間を縫ってステージの司会までこなす元気なシーだが、今日は少し憂鬱な表情を見せていた。
 原因は間違いなく昨日目撃した大神とメルのあの場面だ。
 シーは二人の関係が気になって仕方がなかった。
 普段仲のいいメルにも、今日はどこか意識してしまう自分がいた。
 先ほどまで、他ならぬメルと大神の三人で秘書室で書類の整理をしていたのだが、平静を装うのが精一杯で二人の関係を訊くなど出来なかった。
「あたし、ヤキモチ焼いてるのかなぁ……?」
 誰もいない売店で、シーは思わずそう呟いていた。
「よお、嬢ちゃん」
 そこへ、聞きなれた声が聞こえてきた。
「あ、ジャン班長」
 声の主を見つけると、シーがその名を呼ぶ。
「どうしたんですかぁ? 売店に来るなんて珍しいですねぇ?」
「それがよう、俺のツールボックスが見当たらなくてな。嬢ちゃん、見かけなかったかい?」
 シーの言葉に、ジャンが真面目な顔でそう返した。
「え〜、知らないですぅ? あ、昨日酔っ払って、どこかに置いてきちゃったんじゃないですかぁ?」
「いや、昨日仕事が終わった時には、ちゃんといつもの場所にしまったはずなんだ。それにいくら俺でも酒飲む時にツールボックスなんて持ち歩かねぇよ」
「う〜ん、そうですよねぇ。どうしちゃったんでしょうね?」
「それが分からねぇから訊いてんじゃねぇか。嬢ちゃん、暇だったら今から探すの手伝ってくれねぇか? 工具なんざぁ、格納庫にいくらでも転がってるが、やっぱ愛用の手に馴染んだものじゃないと落ち着かなくてよ」
「えー、だめですぅ。あたし、こう見えても忙しいんですからぁ」
 シーが眉を寄せた。
「なんだよ。店の準備は終わったんだろう?」
 期待を裏切られたジャンがそんなことを言う。
「ツールさーん。いませんかー?」
 と、不意にシーが手でメガホンを作り、ツールボックスの名(?)を呼んだ。
 次に、今度は耳元に手を当てて、返事を聞くような仕草をするとまた口を開く。
「お返事がないですねぇ。どうやらこの辺りにツールさんはいないようです」
 すると、ちょっぴり真面目な顔を作り、任務完了と言わんばかりにジャンに報告する。
「ツールボックスが返事をしたら世話ねえぜ」
 言いつつ、シーの可愛らしい行動にジャンが笑顔を見せた。
「へへ〜。あたしまだやることが残ってるんですよね。がんばって探して下さいっ!」
 シーも笑顔で言うと、
「ああ、邪魔したな」
 ジャンがそう返して売店から出て行った。
「さてと……」
 シーはそう言うと、今日入荷したブロマイドの束を取り出した。
「あ」
 そして、それを見ると再びメルのことを思い出し、同時に昨日のことも思い出す。
 一人になった売店で、シーはまたちょっぴり憂鬱な顔になるのだった。



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