「うん。おいしいよ、レニ。うわー、久しぶりの味だー」 大神は嬉しそうにそれを頬張ると、おいしそうにもぐもぐと口を動かした。 「そ、そう? ……良かった」 その大神に安心したのか、ふっとレニの顔に笑みがこぼれた。 「ああ。最高だよ、この肉じゃが。フランスじゃ絶対食べられないからね」 よほど気に入ったのか、すごい勢いで箸を口に運んでいる。 「……あ、ありがとう」 大神の食べっぷりに思わずレニは頬を赤らめる。 「一生懸命かえでさんに教えてもらったですからねー」 やっと食事にありついたと、ぱくぱくレニが作った肉じゃがを口に放り込みながら、そのレニを冷やかすように織姫が声を上げた。 「え? かえでさんに教えてもらったのかい?」 織姫の言葉に、大神が箸を止めた。 「え、あ、うん……」 と、レニが口篭る。 「レニは中尉さんが巴里で日本食が恋しいんじゃないかと思って、巴里に来たら日本の料理を作ってあげるんだってかえでさんに一生懸命教えてもらってたでーす」 箸を振り回しながら織姫が説明した。 「や、織姫! 黙っててって言ったのに!」 途端に顔を真っ赤にしてレニが抗議をする。 「気にしないでくださーい。これはわたしの分も作ってくれたお礼でーす」 すました顔で織姫。 「そんなのお礼にならないよ……」 赤い顔のままにそう言うと、チラリと大神の顔を覗き見た。 すると、大神が笑顔でそのレニを見つめている。 「ありがとう。レニ」 それから優しい笑顔のままにそう言った。 「……う、うん」 それで、レニはまた照れてしまう。 「何かまたいい匂いがするじゃないか」 「なんだかまたいい匂いがします〜」 そこへ、またオムレツの時と同じにそんな声が聞こえてきた。 「誰が作ってるんだ?」 ロベリアのその言葉と同時にロベリアとエリカが厨房に入ってきた。その後にはグリシーヌと花火、コクリコの姿も見える。 「あー、レニー。また何か作ってるのー?」 「とてもおいしそうな匂いですね」 「赤い貴族、隊長も一緒ではないか」 全員がレニ達を見つけると、その前に並んでいるものに気がついた。 「何だかうまそうなもの食べてるじゃないか」 ロベリアが大神に近づくと、ひょいと大神の肉じゃがをつまみあげる。 「お、いけるねぇ。これなら酒のつまみにも合いそうだ」 「はーい。エリカも食べたいでーす」 そう言うが早いか、エリカも大神の肉じゃがを一つまみすると、 「わー、おいしいですー。これ何ていう料理なんですか? 誰が作ったんです?」 そう言って初めての味に大はしゃぎだ。 「ふふーん。帝国華撃団のレニ・ミルヒシュトラーセにはこれくらい朝飯前でーす」 と、織姫が自慢げに箸を振り回した。 「レニが作ったのー?」 コクリコも大神の肉じゃがに舌鼓を打ったところだ。 「ほう。これはなかなかのものだ」 「おいしいです」 グリシーヌと花火はいつの間にか織姫の肉じゃがをつまんでいた。 「なんだ、やればできるじゃないか。うまいぜ、これ。もっとないのか?」 ロベリアは言いながら、ひょいひょい大神の肉じゃがをぱくついている。 「ちょっ、ロベリア、俺の分がなくなる!」 大神の訴えは「けちけちすんなって」の一言であしらわれた。 「やはりレニさんは日本の料理ならお上手なのですね」 「流石レニだな」 「ブラボーですー。レニさん、最っ高ー!」 それでエリカはお約束通りレニに抱きついた。 「あ、いや、これはその……」 レニはまた困ってしまう。 「レニにはこのくらいどうってことないでーす」 その横では織姫がまたレニ自慢を始める。 「おい、隊長。全部食っちまうなよ。取っておいて夜の歓迎会でまた食うんだからよ。飲みながらさ」 言いつつも、ロベリアはそのおいしさから手が止まっていない。 「え? 今日の夜も歓迎会するのかい?」 言われた大神はロベリアの言葉に驚く。 「当たり前だろ? まだ織姫に『レニ・ミルヒシュトラーセ物語』全部話してもらってないんだからさ」 「え、今夜もあの話するの?!」 思わずレニが声を上げる。 「エリカも続きが聞きたいでーす」 「ボクもー」 「そうだな。途中で終わったので気になっていたのだ」 「私もです」 どうやら全員が楽しみにしているようだ。 「わかりましたー! このソレッタ・織姫が続きをお話して上げまーす!」 そしてまた織姫が調子に乗り、巴里花組はやんやの歓声を上げる。 「……隊長」 「なんだい? レニ」 「……ボクを連れて逃げて」 「え!?」 大神が思わず本気にしてしまいそうなセリフを、その時ばかりはレニも本気で言ったに違いなかった。 その夜、歓迎会は夜遅くまで続き、織姫の語る『レニ・ミルヒシュトラーセ物語』が最終章を迎える頃には、巴里の街が朝焼けに赤く染まっていた。 だが、それ以上にレニの顔が赤く染まっていたことは、言うまでもない。 |