「えっと、バター入れた。グラニュー糖入れた。だから、次は卵を混ぜるです」
「卵だね」
「溶きほぐしてからですよ」
「ああ。もう入れちゃったよ。早く言ってよ織姫」
「もう、レニったら。……いいですか、レニ。手作りのチョコにはその人の想いが宿るんです」
「作った人の想い?」
「そうです。チョコだけじゃありませんよ。その人を想って作ったものには、作った人の想いが宿るんです」
「つくも神みたいなもの?」
「ツクモガミ? それなんでーすか?」
「人の思念が物に取りついて自我を持ったり勝手に動き出したり……」
「ぎゃー! そんなものではありませーん!」
「違うの?」
「違いまーす。そうですね〜、それならチョコの精が宿るということにしておきましょう」
「お伽話みたいだね」
「そうですよ〜。女の子の恋心はいつだってメルヘンなんです」
「女の子……」
「レニだって女の子でしょうー?」
「う、うん……」
「ふふふ。それならやっぱり手作りチョコです」
「やっぱり分からないよ」
「とにかくレニの想いを込めて作るです」
「ボクの想い……」
「レニの気持ちです」
「気持ち……」
「自分の気持ちが分からないですか?」
「うん……。隊長と2人でいるとドキドキする。でも、それが好きって気持ちなのかどうかは分からない……」
「レニ、思い出してみるといいです。少尉さんと出会ってから今日までのこと。少尉さんの顔。少尉さんの言葉」
「隊長の顔……。隊長の言葉……」
「よぉく思い出してみるです。その一つ一つにあなたが抱いた気持ちを」
「…………」
「きっと他の誰でもない、少尉さんだけへの気持ちがそこにあるはずです」

「はい。刻んだチョコレートとナッツを入れてくださーい」
「また混ぜればいいんだね」
「そういうことです」
「…………」
「…………」
「…………」
「レニ?」
「…………」
「何考えてるですか?」
「…………」
「あ、少尉さんのこと思い出してるんですか?」
「…………」
「あら、聞こえてないみたいです。すごい集中力ですねー」
「……………………」
「ふふふ。何を思い出してるんでしょうねー。……あ、顔が赤くなったです」

「薄力粉とベーキングパウダーをふるいにかけたものです。もう混ぜるの飽きてきました」
「…………」
「はい。レニの分もふるってあげましたよー」
「ありがとう」
「あら、レニ。おかえりです」
「おかえり?」
「だって、1人の世界にひたってなかなか帰ってこなかったんですもの。わたし寂しかったでーす」
「そ、そう? ごめん」
「あはは。冗談でーす。それより、早く混ぜるがいいでーす。良く混ぜ合わせたらいよいよ形を作るでーすよ」

「よいしょっと。さあ、後は焼き上がるのを待つだけです」
「もうすぐだね」
「……レニ、聞いてもいいですかー?」
「何?」
「さっきは何を考えてたですか?」
「うん……。隊長のことを考えながら何かするのって、何だか楽しいって……」
「うふふふ。それが好きってことです」
「楽しいけど、織姫にそう言われると何だかちょっぴり恥ずかしいね」
「あはははー、聞いてるこっちが恥ずかしいでーす」
「あ、ご、ごめん、……織姫」
「うふふ。冗談ですよ。私もレニと一緒にチョコが作れて楽しかったです」
「あ、ありがとう、織姫。あの、このチョコレート、できたら少しもらってくれる?」
「わたしなんかがもらっちゃっていいんですか〜?」
「うん。ボク、織姫のことも好きだから」
「あらっ。レニに告白されてしまいました。ふふふ、それじゃあ、わたしのチョコレートもプレゼントします」
「ありがとう。大切にするよ」
「レ〜二。食べた方がいいで〜す」
「あ、そうだね」
「ふふふ」
「あはは」

「あ、足音が聞こえてきやがったです」
「う、うん。……隊長だね」
「さあ、いよいよですよー。レニ、心の準備はできましたか?」
「えっと、うん。多分、大丈夫……」
「もう、レニ。しっかりするでーす」
「そんなこと言ったって……。なんだか、緊張して……」
「ああ、もう。それなら当たって壊れろでーす。それ!」
「あ! 織姫押さないで……」
「レニ、しっかり!」

「ん? やあレニ。どうしたんだい?」
「あ、あの、隊長……」
「ん? なんだい?」
「あの、これ。ボクの気持ちっ」
「え? これ、もしかしてチョコレートかい!?」
「うん。受け取ってくれる?」
「勿論だよ!」
「良かったぁ」
「ありがとうレニ! 大切にするよ!!」
「隊長……。食べた方が、いいよ」
「あ、そうだね」
「あはは」
「ははは」

「あ〜あ、やってられないって感じ〜。……でも、良かったでーすね。レニ」



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