「それより、今誰と一緒にいるの?」 私は、大神君に米田さんやさくらからの伝言を伝える前に、確認しておきたいことがあった。 「え? あ、レニです。レニと二人です。他のみんなとははぐれちゃって……」 レニと二人きりで間違いないようだ。 「そう。それで、大神君これからどうするつもり?」 と、更に質問を続ける。 「はい。米田さんは確か、パーシーさん達と花やしき方面へお出かけのはずですから、見つけてキネマトロンを受け取ります。それからさくら君達を探して合流するつもりです」 的確な状況把握。冷静な判断。これも大神君の長所と言える。 だが、私が今望んでいるのは長所ではなく短所の方。 蒸気電話でのさくらの説明によると、大神君はレニがはぐれたと聞いて慌てて探しに行ったそうだ。おそらくキネマトロンを置き忘れたのもこの時だろう。 レニのことになると冷静さを欠いて周りが見えなくなる。 一見短所にも思えるこの部分が、レニにとっては必要なのだ。大神君にとっても、レニだけを見る時間が必要だ。 そもそも帝劇は騒がしすぎるのだ。二人きりになろうと思っても二人になれなかったりする。 このままではいつまでたっても二人の仲は進展しないのではないか。私はそんな不安をいつも感じていた。 今だって、生真面目な彼はせっかくレニと二人きりだというのに、行方をくらます気などやはりないらしい。 この際これは二人を進展させるいい機会だ。 私は今彼らが置かれている状況から、ちょっとした策略を思いついた。 米田さんやさくらとの約束を破ることになるかもしれないが、責任は大神君に取ってもらおう。 「わかったわ。実はね、米田さん達も花組のみんなも回るところは同じみたいなの。行く場所がわかってるんだからその内見つかるわよ。ふふ」 私はこれからのことを想像すると急に楽しくなり、自然と笑みがこぼれていた。 「そうなんですか。良かった。教えてください」 受話器の向こうの大神君も嬉しそうな声を聞かせる。 「みんな最初に花やしきに行って、それから仲見世を通って浅草寺に行くそうよ」 賽は投げられた。 「花やしきに行って、それから仲見世経由で浅草寺ですね」 もう後戻りはできない。 「えぇ、そうよ。でも、今日はほら、お祭りでしょう? すごい人手だから、見つからなかったら観念して思いっきりレニと遊んでらっしゃいな」 これが私の一番の本音だ。 「え? あ、いやぁ。そ、それもいいですね……」 これも大神君の本音だろう。 すでに、私の思う方向へ進みだしたのかもしれない。 |
<< ・
「第三幕」 「リスト」 「第五幕」 |