リリリリ・リ! リリリリ・リ!
「はーい」
 事務室の蒸気電話の音に思わずそう返事を返すと、私は受話器に手を伸ばした。
「はい。こちら大帝国劇場。わたくし副支配人、藤枝かえでです」
 営業用の声とセリフで、受話器の向こう側の人物に話しかける。
「か、か、か、かえでさん! お、お、大神です!」
 と、受話器から大神君の狼狽した声が聞こえてきた。
「どうしたの、大神君。落ち着きなさい」
 どうしたの、と言いつつ、私は大神君が慌てている理由を知っている。
「キ、キネマトロンをどこかに置き忘れてしまったんです!」
 やっぱりだ。



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