事務室の窓から差し込む日差しは、ガラス越しにでも十分に春を感じさせてくれた。
 それをより強く感じたくて、私はその窓に手をかける。
 外の空気が流れ込んでくると、机の上の書類がふわりと一枚舞った。
 それが机から逃げ出す前に手を伸ばし、つかまえる。
 再び机にそれを戻すと、その横に置かれている帝都日報が目に留まった。
 かすみ、由里、椿の三人は、朝から米田さん、パーシーさんと一緒に浅草に出かけている。
 そのせいだろうか、いつもなら所定の場所にしまわれる新聞も、置きっ放しにされたようだ。
 私はその帝都日報を手に取ると、机にもたれかかる。
「そういえば、浅草でお祭りだったわね」
 きっとすごい人なのだろうと思いながら、その記事を目で追った。
「あら、協賛神崎重工ですって」
 協賛企業一覧に神崎重工の文字を見つける。
 この帝都に暮らしていて、神崎グループの文字を見ない日はまずないと言っていい。
 浅草の地下にも、翔鯨丸が眠っている。神崎重工が浅草寺で行われるお祭りの協賛をしていても、なんら不思議はなかった。
「すみれ、元気かしら……」
 ふと、すみれの顔が浮かんだ。



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