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その頃、大神は1人悩んでいた。 「まずかったかなぁ・・・」 大神は自分の髪をグッとつかんで誰にも聞き取れないような小さな声でそう呟いた。ふと気付けばため息ばかりついていた。
『もう・・・いい』
・・・彼女を傷つけた・・・。 何をしていてもあの時の後悔がこみ上げて来て。 大神の脳裏にあの時のレニの失望したような表情がくっきりと焼き付いていて、大神の心を捕らえてやまなかった。 やはりあの時、彼女の後を追うべきだったのだろうか。 いや、生半可な気持ちで彼女を追うことなんて出来ない。そんな事としてしまっては彼女を余計に傷つけてしまうだけだった。 それに、『あれ』はあともう少しだ。 もう少しでレニに隠していたその理由を堂々と話せる。もう少しの辛抱なんだと自分に言い聞かせ、てあまり考えないよにしていたのだが・・・。 「やっぱり駄目だ」 「何が駄目なの?」 「えっ」 大神が驚いてパッと顔を上げるといつの間にか目の前にかえでが立っていた。 「大神くん、何をボケ〜っとしてつっ立ってるの?」 かえでの話によれば。大神は少なくともかれこれ数分はその場にただつっ立っていたらしい。 「・・・あ、いえ、なんでもありません」 大神はとっさに顔をそむけてそう言い訳したが。 「もう、そんな様子でなんでもないわけないでしょう・・・そうね、大神くんのことだから・・・どうせきっとまたレニのことでしょう?」 「っ・・・」 どうしてかえでという人はこうもすずしい顔してあっさりと心の内を読み取ってしまうのだろうか・・・。 レニの名前に思わず反応した大神を見てかえでは横でくすくす笑って『態度に全部出てるわよ』と付け加えた。
「まったく貴方たちほど分かりやすいものはないわよ?それで、大神くん、今度は一体何をやったの?」 一瞬ためらった大神だったが、かえでにこの手の隠し事は通用しないと判断して(隠したら何をされるか・・・)いさぎよく一部始終をかえでに話すと。 「それって前にレニには内緒にしてくれってみんなに頼んでた例の・・・浅草のあれよね?今日も浅草に行くの?」 「え・・・ああ。まぁ・・・」 と歯切れの悪い大神に、 「・・・大神くんが悪いわ」 とかえではドきっぱりと言った。 「え゛」 「だって・・・それって理由がなんにせよ、大神くんがレニを傷つけたことに変わりはないんでしょう?」 「俺は、レニを傷つける気なんか・・・」 するとかえでは厳しい口調で言った。 「・・・本人その気がなくたって、知らずに人を傷つけてしまうことなんてこの世にごまんとあるのよ」 「う・・・・」 「貴方がそんな様子じゃ、どうしようもないわね。愛する女性を傷つけるなんて、大神くんも男としてまだまだね」 「・・・」 このかえでの一言には正直大神はショックだった。 レニは自分が守るなどと言っておきながら、理由が何であろうとレニを傷つけてしまっていたこと。 ・・・それに、かえでの言う通り、自分は1人男としてまだまだだったのだということ。 弁解の余地はまったくない。
いくらレニのためにやっていたって。レニを驚かせたくて、皆に相談して協力までしてもらって。 それにレニに『だけ』に内緒にすると、内緒にされた本人はどんな思いをするか、レニがどういう思いをするかは十分予想出来たはずだ。 そのはずなのに、こういう事態になってしまったのは、やっぱり大神の落ち度以外の何物でもない。 よりによって、1番笑っていて欲しかった大切な人を。
「・・・かえでさん、俺レニに・・・」 かえではかえでの返事も待たずに大神の走って行く後ろ姿を見て1人満足そうに笑っていた。
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