願い事



   今夜は星が良く見えた。
 レイヴンは子供の頃から星を見るのが好きで、今でも星の良く見える夜は、何とはなしに空を見上げてしまう。
 リーゼもそんなレイヴンの隣に座ると、一緒に星を眺めていた。
 すると、2人が見上げる夜空に、星が1つ流れた。
 流れ星か。
 レイヴンがそう思って流星を見つめていると、ふと、隣でリーゼが手を組み何か呟いていることに気がついた。
「何をしているんだ?」
 そのリーゼに、不思議そうな顔でレイヴンが訊ねる。
 リーゼはそれにすぐには答えず、流れ星が完全に流れたのを確認すると、やっとレイヴンの方を向いた。
「願い事さ。知らないのかい?」
 そしてそう言う。
 レイヴンは黙って首を横に数回振った。
「星が好きなくせにだめだなぁ。流れ星が消える前に3回願い事を唱えると、願いが叶うんだぜ」
「願い事が?」
「ああ」
 古代ゾイド人に伝わる迷信なのだろうかと、レイヴンは思った。
「そうか……。それで、何をお願いしたんだ?」
 その迷信に納得すると、今度はその願い事の方に興味が移る。
「へへ〜、内緒だよー」
 リーゼが何か嬉しそうに笑うと、悪戯な表情のままにそう答えた。
「…………」
 レイヴンはそのリーゼの嬉しそうな表情を見ると、少し考えた後再び口を開く。
「それならいい」
 そして、リーゼから目を離すと、そのまま後ろに倒れこみ目を閉じてしまった。
「えー、気にならないのー?」
 と、リーゼがレイヴンを見下ろして不満気な声を上げる。
「別に……」
 目を閉じたままレイヴン。
「そんなこと言ってホントは気になってるんだろ?」
 リーゼもパタンと体を倒し、レイヴンの隣に収まる。
「いや、内緒ならそれでいい」
「またまた〜」
 言うとリーゼはこっちを向いてよとでも言うように、レイヴンの腕を掴まえた。
 レイヴンはそれに答えるように目を開けると、首を動かして横に寝転がっているリーゼに目をやる。
 ニコニコと笑顔を見せているリーゼが、内緒と言いつつも聞いてほしそうにしているのが手に取るように分かった。
 ここで願い事について訊ねると、じらされて遊ばれるだろう。レイヴンはさっきそう予想して、聞かない方がましだと思ったのだ。
「ねえねえ」
 だが、聞かなければ聞かないで、今度は聞いてほしそうにしているリーゼを見ていると、素直に聞いた方が早いかとも思う。
「……何だ。何をお願いしたんだ?」
 そして、そう考えるとそう言っていた。
「へへ〜、やっぱり気になるんじゃないかー」
 レイヴンの言葉にリーゼはまた嬉しそうな顔を見せる。
 レイヴンは心の中で舌打ちをすると、お前が言いたいんだろうと思う。
「聞きたい? ね、どうしても聞きたい?」
「ああ、聞きたい。気になって眠れそうにない」
 どこか抑揚のない声でレイヴンが言う。
「そこまで言うんなら教えてあげるよ」
 やっとレイヴンの言葉に満足したのか、リーゼが笑顔で言った。
「僕の願い事はね……」
 と、レイヴンを見つめるリーゼ。
「ああ」
 そのリーゼをレイヴンも見つめる。何だかんだ言って、願い事それ自体には興味があった。
「ずっとレイヴンと一緒にいられますように」
 見つめたままにリーゼが言うと、に〜っと口を横に広げた。
「…………」
 レイヴンは声もなくただじっとリーゼを見つめる。
「へへ」
 と、いまだ笑顔のリーゼに、
「叶うといいな」
 レイヴンはポツリとそう言った。
「うん!」
 リーゼは掴まえているレイヴンの腕をさらにぎゅうっと強く抱きしめた。

 夜中、レイヴンは眠れずに、相変わらず夜空を見上げていた。
 眠れずにと言うよりは、眠らずにと言った方がいいかもしれない。
 しばらくそうして夜空を見上げていると、また、今夜2つ目の流れ星がきらっと光った。
 レイヴンはそれを見つけると、慌ててさっきリーゼがやったように手を組むと、用意していた願い事を3回繰り返す。
 そして、それを言い終わると、流れ星が消えるのを確認した。
 ちゃんと流れ星が消える前に願い事を唱えられたことにホッとすると、
「……これでいいのか?」
 そう呟いた。
 それから横で寝ているリーゼの寝顔を見つめると、リーゼが願い事を聞いていなかったことにまたホッとする。
 それからやっと、レイヴンは遅い眠りについた。
 少し離れた場所に体を休めていたシャドーが、そんなレイヴンをじっと見つめていた。
「グオン」
 と、小さく声を発すると、レイヴンが言っていた言葉を思い出す。
『リーゼの願い事が叶いますように』
 その言葉の意味が分からずに、シャドーは首をかしげていた。



ゾイド小説