ぼくフント
作:結城 慎様
ぼくフント。「ていげき」って所で飼われてる犬。男の子だよ。
あふ・・・何だか眠い。最近とっても暖かくて、気持ちいいんだ。だからかなぁ?
レニさんは、「しゅんみんあかつきをおぼえず」って言ってた。
・・・どういう意味だかわからないけど、ようするに、「春はみんな眠くなる」って意味だよね?
ぼく頭いいでしょ?えっへん。
「フント」
あ、レニさんの声だ。
そっちを向いたら、レニさんが手を振ってる。
わ〜い!レ〜ニさ〜ん♪
嬉しくて、おもいっきり飛びついた。そしたら・・・
「ちょ、フ・・・!」
ぼくが飛びついたら、レニさんどしんって尻餅ついちゃった。
・・・やっば・・・;
「・・・っつ、こら、フント!」
あう・・・怒られちゃった。
そうだった。ぼく、おっきくなったんだ。もうちっちゃい子供じゃないんだよ。声も、大人の声になったんだ。
で、そのボクがおもいっきり飛びついたら・・・転んじゃうよね。
「くう〜・・・」
ごめんなさいのかわりに、ほっぺたを舐める。
「あはは、わかった、わかったってば」
笑いながら、ボクのこと撫でてくれる。よかったぁ。
どうしても、昔の癖って抜けないんだよね。ぼく、レニさんが来ると嬉しくって、どうしても飛びつきたくなっちゃう。
「レニ」
「あ」
声が聞こえてそっちを向くと、にこにこしながら手を振ってるたいちょーさん(この人はいろんな名前で呼ばれてるけど、大好きなレニさんの呼び方で呼んでる)がいた。
「隊長・・・」
レニさん、嬉しそうに笑ってる。
レニさんのこういう顔見てると、嬉しくなっちゃう。だって、たいちょーさんがぱりってところに行ってる間、レニさんてばず〜っと泣いてたんだよ?
でも、これはぼくとレニさんの秘密。だ〜れも知らないこと。
「いい天気だね。日向ぼっこにでもきたの?」
「うん・・・少し、中庭でゆっくりしたいなって思って」
「俺も同じ」
二人で顔を見合わせて、くすっと笑い合う。
たいちょーさんとレニさんって、考えてること同じなんだね。
「じゃ、ベンチにでも座って話そうか」
「うん」
二人並んでベンチに座る。ぼくはちゃっかり、レニさんの隣を陣取る。
・・・これくらいはいーでしょ、たいちょーさん?
「いい天気だな〜」
「うん・・・」
ノビをしながら、たいちょーさんが言う。レニさんも頷いて、ぼくの背中を撫でてくれる。
気持ちい〜。
「あふ・・・」
「フント、眠いの?」
あんまり気持ちよくてあくびがでちゃった。
でも・・・うん。ちょっと、眠くなっちゃった。
「わかるな、フントの気持ち。こんなにあったかくて気持ちいいと、眠くもなるよ」
「隊長も、眠いの?」
「そりゃ、こんなにいい天気だから」
そう言って、たいちょーさんも大きなあくびをひとつ。それを見て、レニさんがまたくすっと笑う。
「少し、昼寝でもする?」
「そうだな〜・・・それもいいね。レニも、寝てけば?今日は暇だろ?」
「・・・そうだね」
ぼくの頭撫でてくれながら少し考えて、こくんっと頷いた。
「じゃあ、こっちにおいでよ」
「え?」
少し驚いたような声。目を開けると、たいちょーさんがレニさんを見て、トントンと肩を叩いてる。
「で、でも・・・」
・・・あれ?レニさん、お顔真っ赤だよ。
「いいから。たまには、いいだろ?」
何が、いいんだろ?
首を傾げるぼくだけど、レニさんは意味がわかってるみたい。お顔真っ赤にして、少し考えてるみたい。
「・・・じゃあ」
こてんって、レニさんがたいちょーさんの肩に頭をのせる。そしたら、たいちょーさんの手がレニさんの肩にのせられた。
ああ、そうしてほしかったんだね、たいちょーさん。
「なんだか、恥ずかしいよ」
って言いながら、レニさん、嬉しそうな顔してるよ。
「そう?俺は嬉しいよ。大好きなレニと、こうしてられるのは」
あ、レニさんのお顔がまた真っ赤になった。
「・・・・・・・・ボクも、だよ」
ちい〜さく呟いて、目を閉じる。・・・寝ちゃったのかな?
たいちょーさんも、レニさんの髪の毛に顔をうずめて、そのまま眠っちゃったみたい。
みんな、寝ちゃった。
ふわぁ〜、ぼくも眠くなっちゃった。ぼくも寝ちゃおう。
「隊長・・・」
あれ?起きてたの、レニさん?
「隊長がボクの側にいてくれて・・・ボクも、嬉しい。ボクも・・・隊長が、好き、だよ」
わ・・・・。
びっくりして目がさめちゃった。レニさんの告白、聞いちゃった。
たいちょーさん、聞いてた?・・・あ、寝てる。
もったいないよ〜!せっかく、レニさんがたいちょーさんのこと好きって言ったのに〜!
たいちょーさんに教えてあげたいけど、ぼくの言葉、たいちょーさんには通じないんだよね。アイリスちゃんには通じることあるのにな。あと、コクリコちゃんにも・・・
・・・あ、レニさんも寝ちゃった。
どうして、レニさんはたいちょーさんが起きてる時に言ってあげないのかなぁ。たいちょーさんがぱりに行ってる間も、絶対に他の人の前では泣かなかったんだよ。
ねえ、レニさん。どうしてなの?
ぼく、犬だからよくわかんないけど・・・レニさん、今度はたいちょーさんが起きてる時に言ってあげなよね。泣く時も、これからはたいちょーさんのいる時に泣いてね。
ぼく、犬だからうまく慰められないし・・・レニさん泣いてるの見ると、辛いもん。
・・・でも、もう大丈夫だよね。だって、レニさんてばすっごく幸せそうな顔して寝てるもん。たいちょーさんも、すっごく幸せそう。
えへへ、よかったな。
ふわ〜・・・ぼくも、眠っちゃおう。
おやすみなさい。