レニさんのいない中庭



 大神さんが巴里ってところに行っちゃって、みんなしばらく寂しそうにしてた。
 でもある日、さくらさん達が嬉しそうに、大神さんに会えるんだって帝劇から出て行った。
 それから少しして、今度はマリアさん達がやっぱり嬉しそうな顔をして、巴里に行くんだって言っていた。
 帝劇の人がだんだん少なくなっちゃって、僕と遊んでくれる人も少なくなった。
 僕はドキドキしてたけど、ついにレニさんが僕のところに来て言ったんだ。
「隊長のところに行くことになったんだ」
 僕は寂しかったけど、レニさんは嬉しそうに笑ってた。
 だから僕は言ったんだ。
「わんわん」
 良かったね。大神さんに会えることになって良かったね。
「フントに会えなくなるのは寂しいけど、秋には戻ってくるから、それまで待っててくれるかい?」
 それからレニさんはそう言って、僕を抱っこしてくれた。
「帰って来たら、またこうしで抱っこさせてくれる?」
 レニさんが僕にそう言うから、僕はもちろんこう言ったんだ。
「わんわんわん」
 うんいいよ。僕ずっと待ってるよ。レニさんの帰りを待ってるよ。
 雨の多い季節のことだったんだ。



 花組さんがいなくなると帝劇は本当に静かだったんだ。
 ケンカの声も爆発の音もピアノの音も聞こえない。
 最近元気になってきたお日様が噴水の水をキラキラさせる日のことだったんだ。
「良し」
 かえでさんの合図で僕はご飯をいただきます。
 レニさんがいなくなってから、僕のご飯はかえでさんが持って来てくれるんだ。
 かえでさんはいつも、僕の頭を撫でると優しく静かに笑ってくれる。
「いっぱい食べて大きくなるのよ。レニが帰ってきた時にビックリしちゃうくらい」
 かえでさんがそんなことを言って笑ったよ。
「わんわん」
 僕は元気に返事をしたんだ。
 よーし。大きくなって驚かせちゃうぞ。
 でも、帰ってきた時レニさんも大きくなってたらどうしよう。
 カンナさんみたいに大きくなってたら、僕の方がビックリしちゃう。



 ずいぶん暑くなってきて木陰でお昼寝してた時のことなんだ。
「あれ、フントのやつはどこ行ったんだ?」
 そんな声で目が覚めたんだ。
 僕がひょいって見てみると、米田のおじさんがきょろきょろしてた。
「わんわん」
 僕ならここにいるよって米田のおじさんに教えるよ。
 そしたら米田のおじさんが寄ってきて、僕の隣に座るんだ。
「おお、ここはちぃとばかし涼しいな。さすがフントは良く知ってるな」
 ハンカチで汗を拭きながら、米田のおじさんはそう言った。
「わんわん」
 僕は米田のおじさんに誉められて、なんだか嬉しくなっちゃった。
「おめぇもみんながいなくて退屈だろ」
 米田のおじさんはそう言って、僕の頭をごしごし撫でてくれたんだ。
 米田のおじさんの手はごつごつしてて、力もあるから僕は少し痛かった。だけどとても気持ちが良かったんだ。
 なぜだか安心した気分になったんだ。
「どうだ。ちょっと俺と遊ばねぇか?」
 米田のおじさんはそう言うと、背広のポケットからボールを一つ取り出したんだ。
「わんわんわん」
 本当に? 遊んでくれるの?
 僕は大喜びで返事をしたんだ。だってボール遊びは大好きだから。
 それから米田のおじさんは、よっこらせって腰を上げて、ボールをぽーんと放ったよ。
 僕が取りに行こうと思ったら、米田のおじさんも走り出す。
「そらっ」
 よーし。どっちが早いか競争だよ。負けないよ。
 そうして僕と米田のおじさんは、日が暮れるまで遊んだんだ。
 いっぱい汗をかいたけど、とても気持ちが良かったんだ。それからとても楽しかったんだ。
 だからレニさんも一緒だったらもっと楽しかっただろうなって思ったんだ。



 赤いトマトが大きくなってとてもおいしそうに見えた日のことなんだ。
 紅蘭さんが育ててるトマトは紅蘭さんがいないから、かすみさんが世話してるんだ。
 そろそろ収穫の時期だから、かすみさんがハサミを持ってやってきた。
 由里さんと椿さんも一緒だよ。お手伝いするみたい。
 僕はハサミが使えないから側でそれを見てたんだ。
 パチンパチンと音がして、真っ赤なトマトがたくさんカゴに集まるんだ。
 それを見てたらなんだか僕はとても食べたくなっちゃった。
「ああ!」
 そんなことを考えてたら、椿さんが大きな声を出したんだ。
「由里さん今食べましたね!?」
 椿さんはそう言って由里さんを指差した。
「ふぁべてふぁいふぁよ」
 由里さんは首を振ったけど、ほっぺは大きく膨れてた。
 由里さんいいな。僕も食べてもいい?
「由里。収穫が終わったら一緒に食べようって決めたじゃない」
 かすみさんがめーをする。
 かすみさんに怒られるのはイヤだから、僕も我慢をしようかな。
「ごめんなさーい。あんまりおいしそうだったものだから」
 由里さんは口の中を空っぽにすると、そう言って舌を出したんだ。
「それでどうでした? おいしかったです?」
 そしたら椿さんがそう聞いた。
「うん。もう甘くてとてもおいしかったわよ。紅蘭食べれなくて残念よねぇ」
 とても嬉しそうな顔をして、由里さんそんなことを言ったんだ。
「えー、そんなにおいしかったんですかー?」
 椿さんはそう言うと羨ましそうな顔をする。僕も椿さんと一緒になって羨ましそうな顔をする。
「しょうがないわね。一つだけよ」
 椿さんの顔を見てかすみさんがそう言った。それで椿さんは大喜びしたんだ。
「わんわん。わんわん」
 ねぇ僕は? ねぇ僕は?
 僕もトマトが食べたくてかすみさんにそう聞いた。
「はい。フントも一つだけね」
 かすみさんはそう言って僕にもトマトをくれたんだ。
「わんわんわん」
 ありがとうかすみさん。かすみさんにお礼を言うと僕はトマトを食べたんだ。
 トマトはとてもおいしくて、ジュースみたいに甘かったんだ。
 かすみさんも由里さんも椿さんもみんなおいしいねって言ったんだ。
 だから僕はレニさんにも食べさせてあげられたらなって思ったんだ。



 白くて大きな入道雲がもくもく空に見えたある日のことなんだ。
 僕もあんな風に大きくなれるかなって思いながら空を見上げてたんだ。
 それにはいっぱいご飯を食べなくちゃいけないんだ。
「わんわん」
 だから僕はかえでさんを呼んだんだ。だってお腹が空いたから。
 今日はまだお昼ご飯を食べていないんだ。
 朝ご飯を食べてからもうずいぶん時間が経ったのに、かえでさんはご飯を持って来てくれないんだ。
「わんわんわん」
 僕はかえでさんを呼んだんだ。だけどかえでさんは返事をしてくれない。
「わんわんわん」
 誰でもいいからご飯をちょうだい。だけど誰も返事をしてくれなかったんだ。
 中庭には僕しかいなくって、それどころか帝劇にも誰もいないみたいだった。
 廊下の窓に近づいて僕は何度も誰かを呼んだ。
「わんわんわん。わんわんわん」
 だけど誰もいなくって、やっぱり返事はなかったんだ。
 中庭はいつもより広くって、なんだか僕の知ってる中庭じゃないみたいに見えたんだ。
 僕はとぼとぼ小屋に戻って、ひっそり息をひそめたよ。
 だってここが僕の家だから。レニさんの作ってくれた家だから。
 小屋の外はいつの間にか真っ暗で、僕はいつの間にか眠ってた。
 お腹は相変わらずペコペコだけど、帝劇も相変わらずしんとしてた。
 そしたら突然バタンって大きな音が聞こえたんだ。
「わんわんわん」
 僕はビックリして小屋から飛び出した。
「わんわん」
 誰? 悪いやつなら許さないぞ。ここは僕の家なんだ。
 僕はここでレニさんを待ってるんだから。
「ごめんなさい」
 そしたら誰かさんがそう言って、僕の方に走ってきた。
「私も支配人もかすみ達も、どうしてもやらなくちゃいけない仕事ができちゃったの。お腹空いたでしょう?」
 そう言ったのはかえでさんだった。
「わん」
 かえでさんだ。かえでさんが来てくれた。
「本当にごめんなさいね。フント」
 かえでさんはそう言って、ご飯を置いてくれたんだ。
「わんわん」
 僕は嬉しくなっちゃって、ぱくぱくご飯を食べたんだ。
「あなたに何かあったら私がレニに怒られちゃうものね」
 かえでさんはそう言って、僕の頭を撫でたんだ。
 ううん。僕なら大丈夫。ちゃんと留守番していたよ。
「さくら達が巴里に着いたらしいわ。早速派手に暴れたみたい」
 それからかえでさんはそう言って笑ったんだ。
 さくらさん達元気なの? ねえレニさんは? レニさんは?
 だけどかえでさんはそれには答えてくれなかったんだ。



 元気な声で鳴いているツクツクボウシを見上げてた時のことなんだ。
「まだまだ暑いな」
 そう言いながら米田のおじさんがやってきたんだ。
「わんわん」
 僕が米田のおじさんに近づくと、米田のおじさんはベンチに座ったんだ。
「よしよし。おめぇはいつも元気だな」
 米田のおじさんはそう言いながら僕の頭を撫でたんだ。
 ごつごつした手が気持ち良かったんだ。
「マリア達が巴里に着いたそうだぜ」
 米田のおじさんはそう言って僕に教えてくれたんだ。
「わんわん」
 マリアさん達元気なの? レニさんは? レニさんはどこにいるの?
「レニと織姫は今頃イタリアだな。織姫の家にでも寄ってる頃だろう」
 米田のおじさんはそう言って、織姫さんのお家にいるって教えてくれたんだ。
 でも織姫さんのお家は帝劇じゃないのかな。
 僕のお家はレニさんが作ってくれたんだ。
 レニさんのお家は帝劇なんだ。レニさんのお家はここなんだ。
 だからレニさん、早くお家に帰ってこないかな。



 僕がトンボを追いかけて中庭を走ってた時のことなんだ。
 廊下を米田のおじさんがばたばた慌てて走っていったんだ。
 かえでさんもかすみさんも由里さんも椿さんも廊下を走っていったんだ。
「ただいま帰りました」
 そしたらそんな元気な声が僕の耳にも聞こえたんだ。
 僕にはすぐにわかったんだ。さくらさんの声だって。
「わんわんわん」
 僕もみんなと同じように声がした方にばたばた走っていったんだ
 だけど廊下に入ると怒られるから中庭からじっと廊下を眺めてたんだ。
「たっだいまー」
 そしたら声が聞こえたんだ。今度はアイリスさんの声だって、僕にはすぐにわかったんだ。
「ただいま戻りましてよ」
 すみれさんも一緒だよ。みんな帰ってきたんだね。お家に帰ってきたんだね。
「あーフントだー」
 アイリスさんは中庭に、僕のところに来てくれた。
「ただいまー」
 アイリスさんはそう言って、僕に会いに来てくれたんだ。ジャンポール君も久しぶり。
 そしたらアイリスさんが僕を抱っこしようとしてくれた。
 だけどなぜだか持ち上がらなくて、抱っこしてもらえなかったんだ。
 僕は残念だったけど、帝劇はちょっぴりにぎやかになったんだ。



 ずいぶん空が高くなってきた頃のことなんだ。
 廊下を米田のおじさんがばたばた慌てて走っていったんだ。
 かえでさんもかすみさんも由里さんも椿さんも廊下を走っていったんだ。
 さくらさんもすみれさんもアイリスさんも走っていったんだ。
「ただいま戻りました」
 そしたらそんな優しい声が僕の耳にも聞こえたんだ。
 僕にはすぐにわかったんだ。マリアさんの声だって。
「わんわんわん」
 僕もみんなと同じように声がした方にばたばた走っていったんだ
 だけど廊下に入ると怒られるから中庭からじっと廊下を眺めてたんだ。
「今帰ったぞー」
 そしたら声が聞こえたんだ。今度はカンナさんの声だって、僕にはすぐにわかったんだ。
「ただいまぁ」
 紅蘭さんも一緒だよ。みんな帰ってきたんだよ。お家に帰ってきたんだよ。
「お。フント久しぶりだなー」
 カンナさんは中庭に、僕のところに来てくれた。
「元気にしてたか?」
 カンナさんはそう言って、僕を抱っこしてくれた。
「よいしょっと」
 そんなことを言いながら、僕を抱っこしてくれた。
 いつもは軽がる抱っこしてくれるのに今日はそうじゃなかったんだ。
 僕は不思議だったけど、帝劇はまた少しにぎやかになったんだ。



 まん丸お月様が綺麗な夜のことだったんだ。
 今日はみんな揃ってお月見っていうのをやったんだ。
 みんなでお団子食べたりジュースを飲んだり、米田のおじさんはお酒をいっぱい飲んだんだ。
 僕も今日はいつもより豪勢なご飯をもらえたんだ。
 僕はそれをおいしく全部食べたんだ。
 食べるものがなくなって飲むものもなくなると、みんな眠たそうな顔をして部屋に戻っていったんだ。
 にぎやかだった中庭もとても静かになったんだ。
 この前まで鳴いてたセミの声も今はもう聞こえない。
 みんながいなくなったから僕は中庭にひとりになったんだ。
 僕がひとりになったから僕は寂しくなったんだ。 
 寂しいのはイヤだから眠っちゃおうと思ったんだ。
 だけどお月様がまぶしくて僕はちっとも眠れなかったんだ。
 僕はお月様を見ていたらあの夜のことを思い出したんだ。
 レニさんが大神さんに踊って見せたあの夜のことを思い出したんだ。
 レニさんはとても綺麗に踊ってたんだ。
 レニさんはとても綺麗だったんだ。
 僕はそんなレニさんがますます好きになったんだ。
 もし僕が踊ったら、レニさんも僕のこと好きになってくれるかな。
 もし僕が上手に踊ったら、レニさんも僕のこともっと好きになってくれるかな。
 だから僕は踊ってみたんだ。
 あの夜のレニさんを思い出して踊ってみたんだ。
 今は誰も見てないけどいつか上手になったらレニさんに見てもらうんだ。
 僕はとことこステップを踏んだんだ。
 これでいいのかな。上手にできてるかな。
 僕はずっと踊ったんだ。ひとりでずっと踊ったんだ。
 今はひとりで踊るけどいつかレニさんに見てもらうんだ。それからレニさんと踊るんだ。
 だから僕は踊ったんだ。
 まん丸お月様の夜。
 僕は朝まで踊ったんだ。



 中庭に落ち葉の絨毯が敷かれた日のことなんだ。
 廊下を米田のおじさんがばたばた慌てて走っていったんだ。
 かえでさんもかすみさんも由里さんも椿さんも廊下を走っていったんだ。
 さくらさんもすみれさんもアイリスさんも、マリアさんもカンナさんも紅蘭さんも走っていったんだ。
 僕は前にもこんなことがあったのを覚えてたんだ。
 誰かが廊下を走るたびに帝劇は賑やかになったんだ。
「ただいまでーす」
 そしたらそんな懐かしい声が僕の耳にも聞こえたんだ。
 僕にはすぐにわかったんだ。織姫さんの声だって。
「わんわんわん」
 僕もみんなと同じように声がした方にばたばた走っていったんだ
 だけど廊下に入ると怒られるから中庭からじっと廊下を眺めてたんだ。
 本当は入りたかったけど、昔レニさんに教わったからお外でじっと待ったんだ。
「……ただいま」
 そしたら声が聞こえたんだ。レニさんの声が聞こえたんだ。
「わんわんわん。わんわんわん」
 だから僕は呼んだんだ。一生懸命呼んだんだ。
 僕はここにいるよって、レニさんを呼んだんだ。
「フント」
 そしたら僕の名前を呼んで、レニさんが中庭に来てくれた。僕に会いに来てくれた。
 僕は嬉しくなっちゃって、思い切りレニさんに飛びついたんだ。
「フント!」
 みんなビックリしてたけど、レニさんもビックリしてたけど、僕はぴょんって飛びついたんだ。
 そしたらレニさんしっかりと僕を掴まえてくれたんだ。
「ただいまフント」
 それから優しくそう言って、僕を抱っこしてくれたんだ。
 約束通りレニさんは、僕を抱っこしてくれたんだ。
 だけどそのままどすんって、後ろに倒れちゃったんだ。
 レニさんと僕が倒れたら落ち葉がひらひら舞ったんだ。綺麗にひらひら舞ったんだ。
「あはは」
 倒れたけれど笑ってる。レニさん僕を抱っこして笑ってる。
「わんわんわん。わんわんわん」
 僕は嬉しかったからいっぱいいっぱい鳴いたんだ。尻尾もいっぱい振ったんだ。
「フント大きくなったね。もうボクじゃ持ち上げられないよ」
 それからレニさんそう言ったから、僕は少し驚いた。
 僕そんなに大きくなったのかな? もう抱っこしてもらえないのかな?
 でもいいや。もういいよ。
 今はこうして抱っこしてもらってるから。レニさんが帰ってきてくれたから。
 あのねレニさん。いっぱい話すことがあるんだよ。
 米田のおじさんとボール遊びをしたんだよ。
 トマトが赤くておいしかったんだ。
 入道雲が大きくてツクツクボウシが鳴いていてトンボがすいすい飛んだんだ。
 まん丸お月様が綺麗に見えて、僕は踊りを踊ったよ。レニさんみたいに踊ったよ。
 今はまだ稽古中だけど、いつかレニさん一緒に踊ってくれるかな?
 僕と踊ってくれるかな?
 それからそれからまだあるよ。
 ひらひら舞った落ち葉よりお話しすることたくさんあるよ。
 だけど一番言いたいことは、レニさんお家におかえりなさい。
 僕らのお家におかえりなさい。
 これからはまた一緒だね。
 ふたりで一緒に遊べるね。
「わんわんわん。わんわんわん」
 レニさんレニさんおかえりなさい。



 ずいぶん寒くなってきて雪が降りそうな日のことだったんだ。
 僕とレニさんは並んでベンチに座ってたんだ。
 レニさんは空を見上げてて、ずっと遠くを眺めてた。
 空はどんより曇ってて、今にも雪が降り出しそう。
 だけどレニさんが見てるのが雲じゃないこと僕は知ってたんだ。
 レニさんが帰ってきてくれたから僕はもう寂しくないけれど、帝劇はまだ全員揃っていないんだ。
 レニさんは空を見上げてて、ずっと遠くを眺めてた。
 それからレニさん寒そうに僕のことギュッと抱きしめた。
 それからレニさん寂しそうに僕のことギュッと抱きしめた。
 だから僕は言ったんだ。
「わんわんわん」
 大神さんも早く帰ってくるといいのにね。
「わんわん」
 早く帰ってくるといいのにね。



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