教会の孤児院に住む子供達は、クリスマスが待ちどうしくてたまりませんでした。
 とりわけ、サンタクロースが運んでくるプレゼントが楽しみでワクワクしていました。

 そんなある日のこと、レイヴンとリーゼが言い合いを始めました。
「サンタクロースなんているはずがない。俺達が眠っている間に神父様がプレゼントをそっと配っているに決まっている」
「何言ってるのさ。神父様がプレゼントを配っているところを見たことがあるのかい? サンタクロースはいるに決まってるじゃないか」
 レイヴンとリーゼはにらみ合いました。
「それなら、クリスマスの夜に寝たふりをして起きていよう。そうすればサンタクロースなんて本当はいないんだってわかるさ」
「ああ、いいぜ。ちゃんとサンタクロースの顔を見届けてやるよ」
「ちゃんと起きていろよ。俺だけ起きていても意味がないからな」
「君こそ寝ちゃわないでよ。僕が嘘をついたなんて思われたくないからね」
 こうして、レイヴンとリーゼはクリスマスの夜、寝たふりをしてサンタクロースを待つことにしたのです。



 孤児院の子供達にはプロイツェン神父が親代わりです。
 ヒルツは孤児院の子供達の中では一番の年長で、みんなのお兄さん代わりです。
 プロイツェン神父の手伝いもヒルツは良くやっていて、プロイツェン神父は大助かりでした。

 クリスマスが近づいたある日のこと、プロイツェン神父はヒルツにこう言いました。
「今年のクリスマスの夜は教会の用事で出かけなくてはならない。帰りも遅くなりそうなのだ」
「それでは今年のみんなへのプレゼントはどうなさるのですか?」
「うむ。ヒルツ、お前がみんなにプレゼントを届けてやってくれぬか?」
「分かりました。おまかせください」
 こうして、今年のプレゼントはヒルツが届けることになりました。



 クリスマス当日。
 みんなパーティが終わると、プレゼントを待ちわびて夢心地のベットの中です。
 みんなそれぞれのベットに靴下をぶら下げています。
 アーバインはこの日のために用意した特大の靴下を下げています。
 ムンベイは一つだけでなく、ベットの周りいたるところに靴下をいくつも下げていました。
 フィーネは靴下にサンタクロースへのお手紙を入れ、バンは吊るした靴下に穴が開いていることに気がついていませんでした。
 レイヴンとリーゼも靴下をぶら下げると、ベットの中で息をひそめます。
 あくびをかみ殺して、じっとサンタクロースがやってくるのを待っていました。

 どれくらい時間が経ったでしょう。
 みんながすっかり寝静まった頃、小さな音を立ててそっと部屋のドアが開きました。
『来た!』
 思わず、リーゼは声を上げそうになりました。
 レイヴンも思わず体をビクッとさせました。
 コツコツと足音が聞こえると、ガサゴソという音がして、そっとみんなの靴下にプレゼントが入れられていきます。
「入れやすいように大きな靴下を下げてくれたのかい? 礼を言うよ」
「たくさん靴下を持っているんだな。この花柄の靴下が気に入ったからこれに入れさせてもらうよ」
「手紙かい? 読ませてもらうとしよう」
「おっと、穴が開いているようだ。枕元に置かせてもらおう」
 小さな声でそう言いながら、次々とプレゼントは配られていきます。
 二人はそっと薄目を開けて、その人物を見やりました。

『ヒルツ!』
 暗闇に浮かぶその赤い姿をレイヴンははっきりと見て取りました。
『ヒルツがプレゼントを配っている。ほぉら見ろ、やっぱりサンタクロースなんていないんだ』
 そのヒルツを見つけると、レイヴンはそんなことを思いました。
 予想していたプロイツェン神父ではありませんでしたが、サンタクロースでなければ、プロイツェン神父だろうとヒルツだろうと同じことです。
『これではっきりしたな。サンタクロースはいなかったんだ』
 自分の考えが正しかったとことに、レイヴンはふふふと笑いました。
『見ているか、リーゼ? 俺の勝ちだ』
 それから心の中で、リーゼに向かってそう言いました。

『ああ! ヒルツだ!』
 暗闇に浮かぶその赤い姿をリーゼははっきりと見て取りました。
『ヒルツがプレゼントを配ってる! ヒルツはサンタクロースだったんだ!』
 そのヒルツを見つけると、リーゼはそんなことを思いました。
 サンタクロースの赤い衣装は着ていませんが、いつもの赤い服を着て、確かにみんなにプレゼントを配っています。
『すごい、すごい! まさかヒルツが本当はサンタクロースだったなんてぇ!』
 リーゼは驚きで胸いっぱいでした。
 いつも自分達に優しくしてくれる兄のように慕うヒルツの正体が、実はサンタクロースだったなんて夢にも思わなかったからです。
『でも、やっぱりサンタクロースは本当にいたんだ。レイヴンが言うみたいに、プロイツェン神父がプレゼントを配ってるんじゃなかったんだ』
 自分の信じていたことが本当だったことに、リーゼはうふふと笑いました。
『レイヴン見てるかい? サンタクロースは本当にいただろう?』
 それから心の中で、レイヴンに向かってそう言いました。



 翌朝。レイヴンとリーゼは言い合いを始めました。
「お前は何を見ていたんだ!? サンタクロースなんて来なかったじゃないか!」
「レイヴンこそ何を見ていたのさ!? ちゃぁんとサンタクロースがプレゼントを届けてくれただろう?」
「お前、一体何を見ていたんだ!」
「レイヴンこそ何を見ていたのさ!」
 勿論、二人が見たのはヒルツに間違いありません。



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